メッシとエムバペを封じ、一瞬のミスを見逃さない。バイエルンの戦術的練度は称賛に値

2023年03月14日 小宮良之

バイエルンは単純にチーム力でパリSGを上回った

メッシ(左)を封じ込めたバイエルンは180分でパリSGに1点も与えなかった。(C)Getty Images

 チャンピオンズリーグ、ラウンド16。バイエルン・ミュンヘンは、セカンドレグでパリ・サンジェルマンと対決し、2-0と勝利を収めている。敵地でのファーストレグ、0-1と先勝していただけに、完璧な勝ち上がりだった。

 パリSGはスター軍団だが、リオネル・メッシも、キリアン・エムバペも、力を削がれていた。一発の怖さは健在だった。しかし無得点で、90分、180分間を通して完敗だったと言える。

 バイエルンは単純にチーム力でパリSGを上回った。

 前線のマキシム・シュポ=モティング、トーマス・ミュラーが守備のラインを設定。ハイプレス、ディレイ、リトリートの調整が絶妙だった。中盤でヨシュア・キミッヒ、レオン・ゴレツカがライン間を緊密に保ちながら、最終ラインにダヨ・ウパメカノが聳え立ち、GKヤン・ゾマーの好セーブもあった。それぞれの選手がスペースを占拠する感覚を鍛えられており、コースを断ち切っていた。

 60分、敵陣で囲い込んだ状況を作ると、プレスを背負った状態でボールを受けたマルコ・ヴェッラッティに狙いをつける。わずかに逡巡したところ、挟み込むように食いつき、ボールを奪い返し、ショートカウンターを発動。一気にゴール前に持ち込み、シュポモティングが先制点を決めた。一つのオートマチズムがあった。
 
 パリSGの17歳左利きセンターバック、エル・シャダーユ・ビチアブは側にいたヴェッラッティにパスをつけた。蹴るのではなく、つなげてボールを運べるはずだった。そのパスはミスではない。しかしヴェッラッティは実はロックされた状態だった。そこは若さが出たか。ヴェラッティもどうにかプレスをはがそうとしたが、術中に陥っていた。

 個人で打開する色が濃厚なチームだけに、そこに陥穽があったか。

 一方で、ミスとも言えないミスをつけるだけの戦術的練度が、バイエルンにあった。

 しかし、パリSGも勝機はあったと言える。24分、わずかなスキを突いて、ヌーノ・メンデスが左サイドを切り裂き、マイナス方向へクロスを折り返し、阿吽の呼吸のようにメッシが走り込み、シュート態勢に入っている。一度、ブロックされながら、こぼれを2度、3度と拾って打てたのはメッシならではだったが、敵DF、GKに最後は防がれた。

 バイエルンは終始、気を抜かなかった。その集中力は一過性のものではなく、日々の鍛錬によるものだろう。その点、「ユリアン・ナーゲルスマン監督の勝利だった」とも置き換えられる。

 足首のケガで不在だったネイマールがいたら、どうなっていたか?「個人戦術」は「チーム」を凌駕していたかもしれない。攻撃面で手数が足りなかったのは事実だ。

 しかし、今回はバイエルンのチーム力を称賛するべきだろう。

文●小宮良之

【著者プロフィール】
こみや・よしゆき/1972年、横浜市生まれ。大学在学中にスペインのサラマンカ大に留学。2001年にバルセロナへ渡りジャーナリストに。選手のみならず、サッカーに全てを注ぐ男の生き様を数多く描写する。『選ばれし者への挑戦状 誇り高きフットボール奇論』、『FUTBOL TEATRO ラ・リーガ劇場』(いずれも東邦出版)など多数の書籍を出版。2018年3月に『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューを果たし、2020年12月には新作『氷上のフェニックス』が上梓された。

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