「日本に負けるはずはない」スペイン代表の“おごり”が招いた屈辱的な敗北。意固地に繋ぐ必要はない状況で…

2023年01月31日 小宮良之

ルイス・エンリケ監督は自ら綻びを作っていた

パスサッカーへこだわり過ぎ、森保ジャパンの術中にハマったスペイン代表。(C)Getty Images

 カタールW杯、グループリーグ。日本はスペインを2-1と逆転で撃破し、奇跡的にベスト16に勝ち上がった。今後も語り継がれるゲームになるだろう。「三笘薫の1ミリ」は、これからも何度となく動画で流されるはずだ。
 
 しかしスペインにとって、屈辱的な敗北で忘却の彼方に葬りたい一戦だろう。スペイン側に立った場合、彼らはなぜ敗れたのか?
 
 単刀直入に言って、彼らは日本を軽視していた。実際、ゲームが始まって、圧倒的優位にボールをつなぐことができて、あっさりと先制できたのもあるだろう。元世界王者の末裔には、「日本に負けるはずがない」というおごりが出ていた。
 
 象徴的だったのは、日本の猛烈なプレスに対し、頑固につなぎ続けたシーンにある。無理をする必要はないシチュエーションで、「お前らに取られてたまるか」という意固地さを感じさせた。結局、それが仇となった。
 
 同点ゴールのシーン、スペインは連動したプレスに対し、追い詰められながらクリアを選択していない。GKウナイ・シモンにボールを下げたが、そこもプレスの網がかかっていた。遠くに蹴り出しても良かったが、守護神はあえて左サイドのアレックス・バルデにつなげている。これを狙われてしまい、失ったところを堂安律に叩き込まれた。

 半ば自業自得である。この失点の混乱から、再び攻撃を浴び、三笘の折り返しを田中碧に押し込まれた。

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 スペインはボールを支配し、攻めまくるためのチーム構造だった。中盤のセルヒオ・ブスケッツ、ペドリ、ガビの3人は世界屈指のボールプレーヤーで、ポゼッション率は大会ナンバー1。センターバックにも本来ボランチのロドリを配置し、ボールをつなげ、攻めるための選手起用だった。

 しかしルイス・エンリケ監督はポゼッションに固執し、自ら綻びを作っていた。

 GKに抜擢されたU・シモンは、足技が得意なタイプではなかった。ここ数年、技術は向上していたが、自らの判断で最善のキックができるところまで達してない。彼は「蹴るな」という監督の指示を愚直に守らざるを得ず、日本のプレスを前に無理をした。実は日本戦の前のドイツ戦でもその兆候はあって、十分に見透かせるほどの弱点だった。

 L・エンリケ監督が、圧倒的な攻撃スタイルを信奉するのだったら、GKから始めるべきだっただろう。例えばレアル・ソシエダのGKアレックス・レミロは適任で、攻撃サッカーの先鋒となっている。適したGKがいないと判断したなら、戦い方を相応しい形にシフトすべきだった。U・シモンは総合力が高く、無理をさせなかったら、"戦犯"にならずに済んだはずで…。

 スペイン陣営は、「日本に負けるはずはない」と高をくくっていた。指揮官L・エンリケは美学に溺れて、U・シモンに無理を強いた。そして何より攻撃型チームが反撃に転じられずに沈黙した時点で、必然の敗北だったのである。

文●小宮良之

【著者プロフィール】
こみや・よしゆき/1972年、横浜市生まれ。大学在学中にスペインのサラマンカ大に留学。2001年にバルセロナへ渡りジャーナリストに。選手のみならず、サッカーに全てを注ぐ男の生き様を数多く描写する。『選ばれし者への挑戦状 誇り高きフットボール奇論』、『FUTBOL TEATRO ラ・リーガ劇場』(いずれも東邦出版)など多数の書籍を出版。2018年3月に『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューを果たし、2020年12月には新作『氷上のフェニックス』が上梓された。
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