【采配検証】温情派の一面を捨て去った森保監督の“変貌”。職責は全うも…世界と渡り合うための明確な方向性は提示できず【W杯】

2022年12月06日 加部 究

「理想と現実」の狭間で葛藤

日本はクロアチアに敗れベスト16で敗退。W杯で森保監督の選手起用には変化が見られた。写真:金子拓弥 (サッカーダイジェスト写真部/JMPA代表撮影)

[カタール・ワールドカップ ラウンド16]日本1(1PK3)1 クロアチア/12月5日/アル・ジャヌーブ・スタジアム

 ワールドカップは、絶対に失敗の許されないテストだと思われている。確かに注目度の高さがほかの大会とはケタ違いなので、結果が出なければダメージは計り知れないのかもしれない。

 そこで森保一監督は「理想と現実」の狭間で葛藤した。4年間積み上げた集大成をぶつけて結果に繋がるのは理想だ。だが、戦う相手を見れば、それが難しいというのが現実だった。

 森保監督はワールドカップに入り、明らかに変わった。それは日本に結果をもたらすために、苦渋の決断を繰り返した末の変貌だったに違いない。典型的な慎重居士が未検証の戦い方を提示し、選手たちも必死にそれを体現しようと努めた。温情派の一面は捨て去り、ツキも含めて結果を出した選手の起用にこだわった。

 この4年間、失敗をした選手には必ず捲土重来のチャンスを与えてきたが、とうとうクロアチア戦では、コスタリカ戦で精彩を欠いた上田綺世や伊藤洋輝というカードは選択せず、柴崎岳も大会を通してピッチに立たせることはなかった。
 
 率直に、この日のクロアチアが相手なら「新しい景色を見る」千載一遇のチャンスだった。グループステージの3戦を通して、すっかり疲弊したクロアチアは、ロングボールと日本のミス絡みでしか活路を見出せそうになかった。

 日本は30分過ぎから徐々にゲームを支配し始め、その流れのなかからセットプレーを活かし、先制に成功している。もしこれが、グループステージで大会直前まで準備をしてきた4-2-3-1で対等に渡り合っていたら、もっとスリリングな展開で勝利に近づけたかもしれない。

 しかし、森保監督への最大の命題は、ドイツかスペインを抑えてグループステージを突破することだった。ここで2つの強国を相手に成功した戦い方を変えるのは、たぶん選手たちの心理状態を考えても得策ではなかった。だがコスタリカ戦を除けば、守備に奔走する時間が長かった分だけ、選手たちの疲労は蓄積していた。

 総体的に高い位置に押し上げて戦う時間があまりに限定されたために、鎌田大地、久保建英、南野拓実ら攻撃陣の特長を引き出せず、何よりアジア予選で最も輝いていた伊東純也や三笘薫をアタッキングサードで活用する機会が減った。

 延長前半には、三笘が60メートル前後をドリブルで運びシュートを放ったが、これは逆に堅固な守備を手にする代わりに攻撃の厚みを担保できず、「戦術三笘」に陥っている状況を物語っていた。
 

次ページ「新時代」の到来は予感させたが…

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