なぜ国籍詐称疑惑のエクアドル代表DFはW杯メンバーから落選したのか。表向きは「怪我」が理由だが…【現地発】

2022年11月19日 リカルド・セティオン

チリのサッカー連盟がコロンビア出身だと主張

9月の日本戦でも好プレーを見せていたカスティージョ。(C)Getty Images

「エクアドル代表のユニホームを着てプレーすべきではない選手を彼らは使った」

 チリのサッカー連盟(FFC)はカタール・ワールカップの南米予選終了後からそう訴えていた。

 問題の選手はバイロン・カスティージョ。メキシコのクラブ・レオンでプレーする24歳。右SBだが右サイドのすべてのポジションをカバーでき、南米予選では8試合でプレー、エクアドル代表のレギュラーだった。

 しかし、FFCは彼の生い立ちは全て偽物だと主張する。

 彼のエクアドルの身分証明書には1998年にプラヤス・サン・ロレンソで生まれたとあるが、実際は1995年にコロンビアのトゥマコで生まれ。また身分証の名前はバイロン・ダヴィデ・カスティージョ・セグラだが、本名はバイロン・ハビエル・カスティージョ・セグラ。あるエクアドルの実業家でクラブのオーナーでもあった人物が、エクアドルでプレーしやすくするためにバイロンに新しい身分を与えた。エクアドルのサッカー連盟は数年前カスティージョに聞き取りをしており、これらは彼らも知っていたことだ。

 そしてカスティージョが出場した南米予選はすべて無効だと主張した。仮に8試合がすべて敗戦となれば、チリにカタール行きのチャンスが回ってくる可能性が出てくるからだ。

 FFCは、最高の弁護士をそろえ、何か月にもわたって国際サッカー連盟(FIFA)にこの件を訴えてきた。しかしFIFAはこれを却下。納得できないFFCは、今度はスイスのCAS(スポーツ仲裁裁判所)に訴えたが、この11月8日正式に、「エクアドル政府がカスティージョに正式にパスポートを発行しているのなら問題ない」という答が出された。
 
 ただ、この判決の後ろには政治と大きな経済的理由が絡んでいる。

 エクアドルがもし失格となれば、別のチームがW杯に行くことになる。それがチリなのか、大陸間プレーオフまでに残っていたペルーなのかはわからないが、すでに売られてしまったチケットのチーム名を変え、新たなチームを出場させるのはFIFAとカタールの組織委員会にとってはとんでもない労力だ。

 それに、もしここでエクアドルの不出場を認めてしまったら、やはり出場停止を求められている2つのチーム、イラン(国内人権問題とロシアへの武器援助問題)とチュニジア(政治のサッカー介入)の件も見直さなくてはいけない。直前になって3つのチームを入れ替えるのは不可能だ。唯一の解決策は出場を認めることなのだ。

 しかも、エクアドルを罰するということは、予選の間、選手の身分詐称を見抜けなかったFIFAが過ちを犯したと認めることになる。

次ページ「残念だが、これ以上の問題を避けるためにカスティージョは外れるだろう」

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