中村俊輔にTVゲームで完敗。直々にFKも教えてもらった実践学園の主将DF百瀬健は、なぜ観る者を惹きつけるのか?

2022年11月11日 安藤隆人

エネルギーの源は周りの反応

実践学園のナンバーテンを背負う百瀬。馬力あるプレーで右サイドを制圧するSBだ。写真:安藤隆人

 右サイドバックで10番を背負い、キャプテン。実践学園のDF百瀬健には、どこか人を惹きつける魅力がある。

 選手権東京都A予選準決勝で、実践学園は東海大高輪台と対戦。前半、実践学園は全校応援の東海大高輪台の生徒たちが詰め掛けたスタンドに向かっての攻撃となった。右サイドバックの位置から屈強なフィジカルとポジショニングの上手さを見せ、迫力満点のダイナミックなフォームから正確なクロスを上げる百瀬に対して、「凄いな、あの10番」と感嘆の声が挙がった。

 プレーだけではない。後半33分に交代するまで、ピッチ上で仲間たちを大きな声で鼓舞し続け、ベンチに下がっても延長戦を戦った仲間たちに向けて、大きなアクションを交えて声を張り上げ続けた。

 1-1で迎えたPK戦の時は、ベンチの前で仲間たちと肩を組んで祈る気持ちで見守った。その目にはすでに涙が流れるほど、百瀬は全身で勝ちたい気持ちと、仲間を信じる気持ちを表現し続けた。

 その強い想いもあり、チームはPK戦の末に勝利を収め、5年ぶりの決勝進出を果たした。試合後、百瀬はハキハキとした口調で自分について語ってくれた。

「僕は足が速いわけではないですし、背も小さくて、これといった特長がない選手だと思っています。だからこそ、僕はキックや声で存在感を出し続けて、試合が終わった時に『あの10番が一番記憶に残っている』と言われるような選手になりたいんです」

 相手のスタンドからの声は「もちろん聞こえました。正直嬉しかったし、もっと聞きたいと思った」と満面の笑顔を見せた。

 百瀬のエネルギーの源は周りの反応。自分のプレーで勇気を持てたり、心を揺さぶることができると信じてプレーしている。そんな彼もこれまで周りの人たちに勇気をもらい、心を揺さぶられてきた。
 
 そのなかの1人が今季、現役を引退したレジェンドレフティ中村俊輔だった。

 神奈川県出身の百瀬は小学校時代にあざみ野キッカーズでプレーし、中学時代は横浜市都筑区を中心に活動するFCヴィアージャに所属。あざみ野キッカーズで仲の良かったチームメイトの父親が、中村だった。

 送り迎えの車に乗せてもらったり、ご飯に連れて行ってもらったり、自宅に遊びに行くなど、日本を代表する偉大なプレーヤーに可愛がってもらっていた百瀬。時には中村の代名詞であるFKを直々に教えてもらうこともあった。

「ボールに対する足の入れ方と抜き方、助走の取り方、腰の捻り方まで、本当に細かいところまで熱心に教えてもらうことができました」
 

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