なぜ横浜は優勝できたのか。固定観念の打破と嬉しい誤算、指揮官の線で考える采配。そして宮市亮という存在

2022年11月06日 藤井雅彦

水沼宏太が明かす進化の過程

最終節の神戸戦は3-1の完勝。横浜が3年ぶり5度目のJ1制覇を成し遂げた。写真:田中研治(サッカーダイジェスト写真部)

 変化の兆しは、開幕前のプレシーズンキャンプにあった。

 ケヴィン・マスカット監督は左右のウイングに対し、臨機応変なポジショニングを求めた。当たり前のようで当たり前ではなかった指示が、のちの成功を引き寄せる呼び水となる。

 ウイングの仕事は昨季までのようにタッチライン際に立ち位置を取り、高さと幅を作るだけではない。状況を見極めながらハーフウェーライン付近まで下がってボールを受ける、あるいはインサイド寄りに絞って空いたスペースをSBに使わせる工夫も容認した。

「自分たちにとって今年はチャレンジの年。一人ひとりが新たな気持ちでフレッシュに臨んでいて、どうやってマリノスのサッカーを大きく、強くしていくか」というシーズン当初の言葉を、目に見える形で具現化していった。
 
 昨夏から指揮を執り始めたマスカット監督は、前任者のスタイル踏襲を優先。監督就任にあたってクラブ側から打診された数少ない条件で、シーズン途中のため、自由にコーチングスタッフを構成することもできない。就任時点で優勝の可能性が見え隠れしていた状況も加味すると、独自色を押し出していくのは非常に難しい状況だった。

 冒頭の変化はあくまでもマイナーチェンジに過ぎないが、実際にプレーしている選手の感じ方は違った。求める内容が変われば、より輝きを放つ選手も現われる。水沼宏太が進化の過程をこう明かす。

「去年までのケヴィンは今までのスタイルを崩さないようにしていたし、色をほとんど出していなかったと思う。今年はこれまでのことをベースにしながらだけど、動き方に幅が出てきた。ビルドアップの時はボールホルダーに対してパスコースと選択肢を増やして上げろと指示を出してくれる。キャンプの時からケヴィンの指示が変わってきて、それは自分の中では劇的な変化だった」

 ベースとなるインテンシティを維持しつつ、凝り固まっていた固定観念を打ち砕いていく。するとマリノスの体内にある血液が勢いよく循環し始めた。

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