【アナリスト戦術記】何をチョイスしても良いデータが並ぶJ2王者。明確なビジョンと戦術から来季J1で“新潟旋風”を予測

2022年11月03日 杉崎健

ダブルボランチを据える1-4-2-3-1が最適解に

パス成功率のデータ。非常に高い水準でパスを成功させ、試合を追う毎に成長が見られた。

 サッカーの奥深き世界を堪能するうえで、「戦術」は重要なカギとなりえる。確かな分析眼を持つプロアナリスト・杉崎健氏の戦術記。今回は、2003年以来のJ2優勝で17年以来のJ1復帰を決めたアルビレックス新潟を掘り下げる。

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 25勝9分8敗の成績でJ2優勝とJ1への昇格を決めたアルビレックス新潟。今回はこのチームをご紹介する。

 得点数や失点数は順位表を見れば分かる通りで、いまさら言及しても仕方ないと思うが押さえておこう。J2リーグの最多得点と、失点数は徳島ヴォルティスと並んで最少だった。数字を見ればJ2優勝と昇格にふさわしく、もちろん内容もそれに沿ったものであるのは疑いの余地はない。

 現FC東京のアルベル元監督の後を受け継ぎ、松橋力蔵監督になってからもボールを大事にするスタンスは大きく変えず、ポゼッション率はリーグ最高。相手を押し込みながら攻撃的に振る舞い、上記の記録を打ち出した。ちなみに、1攻撃あたりのボール保持時間は22秒で、こちらもリーグ最長である。

 ただ、開幕前と開幕後の数試合は苦戦した。コロナ集団感染などの外的要因により、キャンプ時に様々な落とし込みをしたかったであろう1-4-3-3のシステムは浸透し切れず、開幕から4試合で勝てなかった。

 3節のレノファ山口FC戦ではアンカーの高宇洋選手へのマークが厳しく自陣攻撃のビルドアップにスムーズさを出せなかったし、4節のブラウブリッツ秋田戦は雨による水たまりのあるピッチコンディションに苦しんだ。
 
 そこで、3月19日の5節・ヴァンフォーレ甲府戦ではダブルボランチを据える1-4-2-3-1へ変更し、2-0で勝利を収めると、そこからはこのシステムに落ち着き結果が出始める。

 システムで試合をするわけではないが、チームや選手にとっての最適解はあるもので、重きを置くポゼッションにおけるパスの循環を考えると、高選手の横にもう1人置くことで「しっくり」きたのだろう。

 最初の図として掲載したのはパスの成功率のデータだが、シーズンを通して80%を切ったのは前述の秋田戦のみ。また、85%未満という観点でもアウェーの大分トリニータ戦を加えるだけと、非常に高い水準でパスを成功させていった。

 また、近似曲線(赤の点線)を見れば分かるが、試合を追う毎に成長が見られる。パスを回せば勝てるわけでもなく、いかにゴールに迫れるか、前に行けるかが重要だが、松橋監督が掲げた「勝利に固執する」部分も体現していった。事実、ペナルティエリアに進入した回数もリーグトップの数値である。

【PHOTO】ホームビッグスワンでJ1復帰の歓喜を味わった新潟サポーター
 

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