引退後すぐに強化の道へ――大分の西山哲平GMが語る“育成方針”と“トリニータ愛”。「人を大事にする温かいクラブでありたい」

2022年09月04日 中田徹

「“2対1”で攻略できるのを、あえて1対1で行かせる」

アカデミー部門のシント=トロイデン(STVV)短期留学に同行した西山GM。写真:中田徹

 大分トリニータ・アカデミー部門のシント=トロイデン(STVV)短期留学には、フットボール部門全般の責任者として西山哲平GMが同行した。選手として大分に入団したのは2002年。09年に引退してから、そのまま大分で強化の道に入った。現職は16年からだ。

「GMというと、よそから来てトップチームだけ作って去っていく人が多いんですが、西山はアカデミーも含めてやってくれてます。彼も大分でもう20年。『トリニータ愛』のある、クラブへの思いが強いGMです。うちにとって貴重な人財です」(小澤正風COO)

 西山GM本人は「もちろん、大分の選手として過ごした8年の間にもクラブ愛はありましたが、引退してからの方がより思いが強くなりました。強化はクラブの根幹のような部署。『クラブのために何ができるか』という思いで突き進んできたら、いつの間にか20年が経っていました」と明かす。

 大分の育成に関して、西山GMは「トップのサッカーに順応しやすい選手を作るアカデミーではなく、トップに上がってから『個』として輝ける選手を育てるアカデミーにしよう」という指針を立てた。

「トップチームのスタイルを真似て、より戦術的な選手を作るトレーニングをしていると、アカデミーの選手がトップに上がってもスムーズに練習できるんです。しかし、その選手が大成するかどうは別だということに、私たちは気付いた。今、うちのアカデミーは『個』の力を重視するように変わりました」

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 こうして生まれたのが「たくましい『個』を作る」という定義だ。

「『たくましい』という表現の中には大まかに4つの柱があります。
・フィジカル的なたくましさ
・技術的なたくましさ
・判断するたくましさ
・精神的なたくましさ」

 フィジカルや精神的なたくましさは理解しやすいが、技術的なたくましさと判断するたくましさはイメージしづらいので、説明を補足してもらった。

「プレッシャーやスピードがある中での止める・蹴る。試合で役立つ技術――そんなたくましい技術を身につけた選手を育てる。『判断するたくましさ』は、ピッチ内外で、自分で責任を負ってその都度判断できるような選手になるということ。『主体性』という言葉に置き換えることができます」

 さらに西山GMは「たくましい『個』」の説明を続ける。

「『個』で剥がすとか『個』で守るとか。数的優位を作れば"2対1"で攻略できるのを、あえて1対1で行かせる。ポジショニングのうまさだけで攻略できる仕組みづくりより、対人に強い選手を育てる。例えば1対1のドリブルでかわす力とか、背後に飛び出す力とか、そういう個のたくましさを追い求める方に比重をちょっと上げました。とは言え、戦術的なことも知っておかないといけない。カテゴリーが上がっていくにつれて、戦術理解の高さも要求していくと思います。U-18だと『たくましい個』と『戦術』が半々になるかもしれません」
 

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