J3天王山で敗戦も着実に前進する藤枝の超攻撃的サッカー。指揮官が目ざす“究極のエンターテイメント”とは?

2022年08月29日 前島芳雄

藤枝がJ3の中で注目すべきチームなワケ

昨年7月から藤枝で指揮を執る須藤監督。指揮官が目ざす理想的なサッカーは、着実に結果につながってきている。(C)J.LEAGUE

[J3第22節] 藤枝0-3いわき/8月27日/藤枝総合運動公園サッカー場

 6連勝中の5位藤枝と、7戦負けなしで首位を走るいわき。試合前の勝点差は7だが、藤枝は直近2試合が悪天候の影響で延期となっているため、ここで勝てば自力でいわきを抜く可能性が出てくる。まさにJ3の天王山と言える一戦だった。

 しかし蓋を開けてみると、立ち上がりからいわきが球際のバトルでホームチームを圧倒。4分にCKから先制すると、20分にも追加点を決め、前半は多くの時間、藤枝側のハーフコートで試合を進めた。

 後半は藤枝が多少持ち直したものの、いわきの速い囲みを突破できず、決定機も作れないまま。逆にいわきが79分に3点目を押し込み、終わってみればシュート数はいわきの19本に対して藤枝は1本。3-0というスコア以上の圧勝劇だった。

 この試合だけを見れば、「藤枝はなぜ6連勝もできたんだ?」と疑問を持つ人も多いだろう。だが、6月下旬から一気に順位を上げてきた藤枝が、今もJ3の中で注目すべきチームであるのに変わりはない。なぜなら、3部のカテゴリーでは成功しにくい理想主義的なサッカーで結果を出しつつあるからだ。

 昨年7月から藤枝の指揮を執っている須藤大輔監督は、「究極のエンターテイメントサッカーを目ざす」と堂々と宣言し、GKもビルドアップに参加して圧倒的にボールを支配しながら、1点2点では満足せずに多くのゴールを奪っていく、超攻撃的サッカーを志している。
 
 もちろんJ3にも以前からサッカーの美学にこだわるチーム(監督)は存在していたが、目ざすスタイルを完成させるには時間がかかるため、現実主義のチームに押し負けて結果を出せないまま監督交代に追いやられ、路線変更に至るケースが多い。藤枝でも、2018年途中までの大石篤人監督体制から、石﨑信弘監督にバトンタッチした際には、そうした流れがあった。

 その一方で、2020年にJ2昇格を勝ち取った秋田や、昨年昇格を決めた岩手は、インテンシティを前面に出す徹底したダイレクトサッカーで結果を出しており、J3ではそのスタイルのほうが昇格への近道という傾向がある。JFLから昇格して1年目で首位に立っているいわきは、まさにそちらの系統と言える。

 須藤監督も当然そうした時流は理解しているが、それでもあえて自分たちの理想を追求する姿勢を貫いている。それが絵に描いた餅ではなく、着実に試合展開に反映され、結果にもつながっているのは、質の高い練習ができているからに他ならない。

 正確にパスをつなぐための止める・蹴るに始まり(今季は「止める・わたす」という言い方に変えている)、狭いスペースの中でいかにボールを失わずに味方につないでいくか。そして「相手の立ち位置を見ながら、自分たちがどう立ち位置をとってスペースを作り、それを共有していくか」(須藤監督)を徹底している。

 やりたい攻撃を形にするための練習メニューの組み方や意識づけは非常に工夫されており、チーム全体のプレーのクオリティは日々進化を続けている。選手たちも、成長を実感できており、モチベーションを高めている。
 

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