現地ベテラン記者が香川真司を密着レポート「メディアの評価に一喜一憂する必要もない充実ぶり」

2015年09月23日 マルクス・バーク

まだ改善の余地あり。フィニッシュに絡み得点を量産すれば…。

公式戦連勝記録を伸ばし続けているドルトムント。その原動力となっている香川は充実の時を過ごしているが、バイエルンを抑えて栄冠を手にするには、さらなる向上が必要だ。 (C) Getty Images

 選手個々のパフォーマンスを採点したり、その節のベスト11を選んだりする行為は、時として激しい議論を招く。
 
 ブンデスリーガ第5節のベスト11にイルカイ・ギュンドアンを選出した専門誌『キッカー』の見解には、私も反論したくなった。
 
 ギュンドアンがベスト11に選ばれたのは、今シーズン初めて。3-0の快勝を収めたレバークーゼン戦でのギュンドアンは、たしかに悪い出来ではなかった。しかし、もっと良いプレーを見せていた試合があったような気がしてならない。
 
 その一方で、この試合で1ゴール・1アシストをマークした香川真司の選出には、全く異論がない。驚くほど軽快にピッチを駆け回り、エレガントで輝くようなプレーを見せていた。ここまでのキッカー誌の平均採点は「2.1(1が最高、6が最低)」で、「1.88」のトーマス・ミュラーに次いでリーグ全体の2位につけている。
 
 もし、トーマス・トゥヘル監督がレバークーゼン戦の終了間際に香川をベンチに下げていたら、ゴール裏のスタンドは「カーガーワ・シンジー」の大合唱だったはずだ。
 
 最近はなぜか、特定の個人を応援するチャントに耳にする機会が少なくなってきている。今、ファンの間で一番流行っている応援歌は、「Wer wird Deutscher Meister? BVB Borussia!!(ドイチェ・マイスターになるのは誰だ? BVB、ボルシアだ!!)」だ。
 
 5節終了時点で首位に立つドルトムント。公式戦では目下11連勝中で、ここまでのパフォーマンスを見る限り、この快進撃はしばらく続くはずだ。ただ、彼らが本当の意味で王者バイエルンと肩を並べたどうか、その判断を下すのは時期尚早だろう。個人的には、タレント力も安定感もまだバイエルンには及ばないと思っている。
 
 香川はチームの好調を支える原動力となっているし、前述した通り、彼自身の評価も高まっている。
 
 ドルトムントの日刊紙『ルール・ナハリヒテン』は9月23日のホッフェンハイム戦を前に香川を大きく取り上げ、「トゥヘル新監督の下で開花している」と称賛。ただ、レバークーゼン戦の採点は「2.5」と少々辛めだった。読者による採点は「1.7」だったし、私も少なくとも「2.0」は与えても良いと考えていた。
 
「僕はあまり新聞を読まないから、自分が何点だったかは知らないよ」
 
 選手たちはよくそう言うが、多くの場合、それはごまかしに過ぎない。というのも記者仲間から、「選手から採点について尋ねられた」という話をしばしば耳にするからだ。選手の代理人が電話でケチをつけてくるケースもあるという。
 
 その必要が全くないのが今の香川で、彼の代理人も採点に不満を抱いていないはずだ。
 
 序盤戦のヤマ場のひとつだったレバークーゼン戦に勝利したとはいえ、ドルトムントの選手たちは気を緩めていない。
 
 主将のマッツ・フンメルスは、今の成功に溺れないよう警戒を怠っていない。現状に満足していないのはトゥヘル監督も同じで、「すでにチームが最高の状態に達したかどうかは分からない」とコメントしている。
 
 香川にもまだ、改善の余地があるはずだ。これまで以上にフィニッシュに絡み、さらに得点を量産できたら――。今度こそ、「カーガーワ・シンジー」のコールがスタジアムにこだまするはずだ。
 
文:マルクス・バーク
翻訳:円賀貴子
 
Marcus BARK
マルクス・バーク/地元のドルトムントに太いパイプを持つフリージャーナリストで、ドイツ第一公共放送・ウェブ版のドイツ代表番としても活躍中。国外のリーグも幅広くカバーし、複数のメジャー媒体に寄稿する。1962年7月8日生まれ。
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