【アナリスト戦術記】ポジションレスに“回りながら踊る”鳥栖のアタック。スピーディに数的優位を創出

2022年06月08日 杉崎健

攻撃時は1-3-4-3、守備時は1-5-4-1が主流

16試合を終え、勝点24で8位の鳥栖。下馬評を覆す戦いぶりで注目度を高めている。写真:金子拓弥(サッカーダイジェスト写真部)

 サッカーの奥深き世界を堪能するうえで、「戦術」は重要なカギとなりえる。確かな分析眼を持つプロアナリスト・杉崎健氏の戦術記。今回は、サガン鳥栖の攻撃戦術をディープに掘り下げる。

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 前回の柏レイソルは守備戦術をメインにお届けしたが、今回はその逆の攻撃戦術に目を向けようと思う。対象はサガン鳥栖。このチームに注目したのは、今季の飛躍を危惧する有識者が多かったことと、それに反して結果を残している前半戦を見たからだ。

 昨季を終え、数多くの主力が移籍という決断をした。指揮官の交代など揺れに揺れたはずのチームは、いかに攻撃を構築して勝点を上積みしてきたのか。その一端を深堀りしていく。

 開幕前、彼らに対する風向きは良くなかった。樋口雄太、小屋松知哉、エドゥアルドなど、昨季終盤の主力のほとんどが移籍し、まるで違うチームに変わるかもしれないと予測が立ったからでもある。

 筆者も陳謝しなければならない。開幕前予想で下位としたからだ。移籍のみならず、監督含め指導側も変わるとなれば構築に時間がかかると予測し、立て直しがスムーズでなければ低迷したままになると想定したからでもある。

 それを覆したのは、おそらくキャンプでのトレーニングだろう。横浜F・マリノスでも経験したが、チームスタイルの構築に必要なのは、シーズン前のキャンプでの落とし込みである。鳥栖の攻撃を紐解くうえで、このキャンプ時でのトレーニングや、日々のトレーニングはカギを握っているはずだ。もちろん、物理的にも情勢的にも筆者は赴いたわけではなく、それらを追えていない。だからこそ、試合から逆算して考察してみた。
 
 今季の約半分にあたる16試合を終え、鳥栖は勝点24で8位。得点21はリーグで暫定5位の数字だ。手元のデータだとボール支配率がリーグで6位。50パーセントを下回った試合は6試合しかない。ただ皮肉なことに、この6試合は4勝2分の負けなし。ボールを持てなかったほうが負けない事実は興味深い。

 残りの試合はすべて50パーセントを上回っているわけで、試合を見てもお分かりの通り、非常に繋ぎの部分を大事にしていることが見て取れる。まずはメカニズムを見ていこう。

 システムは攻撃時と守備時で変わる。現代サッカーの潮流とも言えるが、可変スタイルを採用している。さらには、攻撃時も立ち位置がめまぐるしく変わる。これが最も特長的と言っていいだろう。

 数字であえて記せば、攻撃時は1-3-4-3、守備時は1-5-4-1が主流だ。ただこれも、その通りではない。試合中に変わるし、相手によっても変えている。鹿島アントラーズ戦(15節/4-4)は3センターで挑んだし、ガンバ大阪戦(16節/2-1)は1トップを務めることが多かった小野裕二をシャドーの位置で使って変化させたりもした。
 

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