なぜクロップは敗北からさらに強いチームを作れるのか。旧知の関係者の言葉から読み解く。「傑出しているのが…」

2022年05月28日 エル・パイス紙

「監督、コーチにとってはむしろ扱いづらい選手だった」

選手からの信頼も厚いクロップ監督。リバプールを世界最高峰のクラブへと引き上げた。(C)Getty Images

「傑出しているのが負けた後の切り替えだ。興味深い現象だよ」

 ユルゲン・クロップの自伝、『ノーマル・ワン』の著者、ラファエル・ホーニクシュタインがこう評するように、リバプールの現指揮官は、失敗を糧にすることができる敗北におけるエキスパートだ。

 ホーニクシュタインその興味深い現象という理由を次のように説明する。

「トップレベルの監督には珍しいタイプだ。大半の者は、敗北を受け入れることができないからね。今シーズンのプレミアリーグ優勝を逃した後も『2位になることが私の人生の物語なんだ』と淡々と答えていた。クロップがシーズン終盤、あと一歩のところでトロフィーを逃したことは一度や二度ではない。他の人間なら、落ち込んでしばらく立ち直れなかったはずだ。だから選手たちも最初は驚きながらも、『監督がああいう態度なら、俺たちがショックを受けてどうするんだ』と思えるようになるんだ。失敗を糧にする力を持っている」

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 そのクロップの能力を誰よりもよく知るのがマインツのスポーツディレクター、クリスチャン・ハイデルだ。2001年に当時選手だったクロップを監督に抜擢した人物でもある。バイデルは「友人たちの間で呼ばれているあだ名はクロッポ」と断りを入れてから、その時の決断を誇らしげに回想する。

「クロッポは主力のひとりではあったけど、最も優れた選手でも、キャプテンでもなかった。監督、コーチにとってはむしろ扱いづらい選手だった。でも同時にクロッポはチームのボスでもあった。そんな最中だった。チームは(2部で)降格圏に沈み、我々はすでに2人の監督を解任していた。

 私は新監督の招聘に前向きではなかった。監督がいないほうがむしろチームが上手く回っているように思えたからだ。つまり我々はベンチに座ってくれる人間を探していた。そこでクロッポに白羽の矢が立った。直前の試合で負傷し、当時ライセンスが必要ではなかったことも我々の決断を後押しした」

 とはいっても、新米監督にとっては極めて厳しい状況に変わりはなかった。ホーニクシュタインもその点を強調する。「マインツは例えばラ・リーガのアラベスやレバンテのようなクラブとは異なる。その時点で1度も1部リーグに昇格したことがなかった」

 しかしクロップの就任後、マインツは猛烈な巻き返しで残留を決めると、そこから青年監督の下で急速に力をつけ、03―04シーズンにクラブ史上初のブンデスリーガ1部昇格を果たす。バイデル曰くその時も原動力になったのが、クロップの失敗を糧にする力だった。

「01―02シーズン、マインツは勝点1及ばず、昇格を逃した。しかも開幕から33試合昇格圏をキープし、最終戦の34試合目に転落するという形で、だ。 

 誰もが最初で最後のチャンスを逃したと思った。マインツに戻ると、駅には1万人ものファンが集まっていた。クロッポは群衆の前に立つと『昨日は大きな問題に直面してしまった。でも来シーズンは我々が対戦相手にとってもっと大きな問題になる』と宣言した。するとその場はたちまち「来年こそは!」と翌シーズンの昇格を信じるムードに包まれた。
 

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