【連載】現地ベテラン記者が香川真司を密着レポート「正しかったトゥヘルの判断 称賛の嵐に包まれた開幕戦」

2015年08月19日 マルクス・バーク

最大のサプライズが香川の先発起用だった。

ドルトムントの開幕戦勝利に貢献した香川。トゥヘル監督の先発起用に見事に応えた。 (C) Getty Images

 ドルトムント復帰2年目の今シーズン、香川真司は完全復活を遂げられるだろうか。ドルトムントというクラブを知り尽くしたベテランのマルクス・バーク記者が、週一回のこのコラムで香川の「いま」をお届けする。
 
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「"トゥヘル・モード"のドルトムントがグラッドバッハを破壊」
「ものすごいプレーの楽しさ」
「"ドルトムント・サーカス"で、グラッドバッハはただの観客」
 
 2015-16シーズンの開幕戦、ボルシア・メンヘングラッドバッハをホームに迎えたドルトムントは4-0で快勝。そのパフォーマンスに対して、新聞や専門誌は競い合うように賛辞を並べた。
 
 この一戦だけを考えれば、たしかにドルトムントが見せたプレーは称賛に値するものだった。ただ、シーズンは34試合の長丁場だ。もう少し様子を見る必要はあるだろう。
 
 熱狂する周囲をよそに、当事者たちは至って冷静だ。主将のマッツ・フンメルスが「僕たちを褒めるのはまだ早い」と気を引き締めれば、指揮下のトーマス・トゥヘルは「次の試合に向けて良い準備をする。それがプロスポーツの基本だ」と先を見据えている。
 
 では、ボルシアMG戦を振り返ってみよう。この日の先発メンバー11人のうち9人は大方の予想どおりだった。
 
 微妙だったのは、アンカーに19歳のユリアン・ヴァイグルを起用するかどうかで、最終的にトゥヘル監督はスベン・ベンダーではなくこの若武者を選んだ。もっともプレシーズンでは良いプレーを見せていただけに、それほど大きな驚きではなかった。
 
 最大のサプライズは、香川真司のスタメン起用だった。香川の調子が下降線だったため、戦前の予想ではレバークーゼンから1100万ユーロ(約15億円)で獲得したゴンサロ・カストロを推す声が多かった。
 
 チャンピオンズ・リーグに出場できる環境を捨てて、ドルトムント入りを選んだカストロ本人もモチベーションは高かったはずだ。しかし、開幕戦での出番はなし。それだけに失望が大きかったのだろう。試合後には同僚たちが歓喜に沸くなか、悔しさを押し殺したような苦々しい表情を見せていた。
 
 結果的に見れば、トゥヘルの選択は正しかったと言える。ヴァイグルはビルドアップ時にサイドに大きく開いたCBの間に入って的確にパスを散らし、コントロールタワーとして機能した。カウンターを得意とするボルシアMGのプレスに全く動じる様子もなく、ほぼノーミスで90分を終えた。本人も手応えを感じたようで、「(今日の試合は)とにかく凄かった。これを続けるぞ」とツイートしている。
 
 ヴァイグルと同様、香川も素晴らしいパフォーマンスを披露した。担っていたのは攻撃を加速させる役割で、とりわけマルコ・ロイスの先制点をアシストしたワンタッチパスは見事だった。
 
 主力のコンディションが良かったのも、好材料と言えるだろう。特にフンメルスとイルカイ・ギュンドアンは、夏のキャンプで有意義な時間を過ごせたようだ。フィットネスが向上し、数年前の良かったころのキレを完全に取り戻したと言えるのではないだろうか。

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