スカウト部長のリティが語る「開幕に挑むドイツ組12選手への期待」

2015年08月14日 田邊雅之

第一線への復帰と活躍。香川が示してくれた好例。

指揮官が代わり、転換期を迎えているクラブで奮闘している香川だが、彼の“復活劇”は他の日本人選手にとってもひとつの手本になる。(C)Getty Images

 ヴォルフスブルクのスカウト部長を務めるリトバルスキー氏が、ブンデスリーガでプレーする日本人選手の昨季のパフォーマンスを評価し、新シーズンへの期待を語る。
 
 現役時代は選手として3度のワールドカップに出場し、90年のイタリア大会では世界制覇を達成。かつてのJリーグでもプレー経験のあるリティは、日本人の技術の高さを認めると同時に、成功を収めるには「適応力」が重要だと強調する。
 
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 ブンデスリーガでプレーしている日本人選手を、一概に論じるのは難しい。コンスタントに良いパフォーマンスを披露した選手もいれば、不本意なシーズンに終わった選手もいるからだ。
 
 ただしクオリティが低いということではない。私が常々主張しているように、日本人選手は確かな能力を備えている。明暗を分けたのは、怪我や監督交代、戦術の変更、激しいレギュラー争いでいかに生き残っていくかという「適応力」の違いだったような気がする。
 
 その点で好例に挙げられるのが、ドルトムントの香川だ。DFBカップ決勝ではヴォルフスブルクに敗れたものの(スコアは1-3)、見事なパフォーマンスを披露。その実力の高さを改めて証明してみせた。
 
 まさにあれこそが、私が知っていた香川だと言っていい。ドルトムントはクロップからトゥヘルに監督が交代し、転換期を迎えているが、昨季最終戦で見せたプレーは、新シーズンに向けた良い兆しとなったはずだ。
 
 そして香川の復活劇は、他の日本人選手にとってもひとつの手本になる。日本人選手はクオリティが高く、真摯にサッカーに取り組むが、出場機会に恵まれなかったり自信を失ったりすると、立ち直るケースが少なかった。
 
 香川自身もドルトムントに復帰した当初は苦労していただけに、今回の復活劇を通して大きな手応えを掴んだのではないか。
 
 一方、シャルケで5シーズン目を戦った内田は、右膝の怪我により、シーズン終盤に出場機会を失った。とはいえ戦術理解度やメンタルの強さに定評があるし、視野の広さという独自の武器も持っている。チームはSBの新戦力(カイサラ)を獲得したが、コンディションさえ取り戻せば、新シーズンも重要な戦力になるのは間違いない。
 
 怪我がこれほどまでに長引いたのは、日本とドイツでは治療法が微妙に異なることも影響した可能性がある。いずれにしても、ブンデスリーガで戦っていくためにはきちんと休養を取り、シーズンを通してコンディションを維持していくことが鍵を握る。肉体はもとより、精神面においても、日本とは比べものにならないほどのストレスがかかるからだ。
 
 ハノーファーの清武も内田ほどは怪我に悩まされなかったが、不本意なシーズンを送った印象が強い。32試合に出場したものの、パフォーマンスには波があった。
 
 これはチームが残留争いに巻き込まれたことで、(タイフン前監督が)戦術を変更して守備的な戦いをするようになったことも関係している。4月にフロンツェク監督が就任し、状況は改善されたが、新シーズンに向けて、清武は自らの能力を最大限に発揮する方法も考えなければならない。
 
 昨シーズンはボールに絡もうとするあまりに、本来の持ち場=4-2-3-1のトップ下や2列目の左サイドを離れるケースも多かった。もちろん、チームに貢献しようとする姿勢は、日本人選手が持つ美徳のひとつだ。しかし攻撃のキーマンとして、チームの勝利により貢献していくためには、ポジショニングを工夫していくのが望ましい。

次ページ充実のシーズンを送った乾だが、オフ・ザ・ボールの質を上げたい。

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