「1-4-4-2」「1-4-3-3」…なぜスペインの指導者は、フォーメーション表記からGKの“1”を外すのを許さないのか?

2022年04月11日 小宮良之

「11人での共闘という精神」がGKを勇気づける

スペイン代表でGKの定位置を争うデ・へア(左)U・シモン。(C)Getty Images

 フォーメーションは数字で表される。4-4-2、4-3-3、3-4-3、5-3-2など数字の並びはどれであれ、これが日本サッカー界では一般的だろう。フィールドプレーヤーをラインごとに表記。4-1-4-1、3-4-2-1のようなものもあるが、10人での構成だ。

 しかしスペイン人指導者は必ずと言っていいほど、フォーメーションにGKの1を入れる。

「GKを入れずに試合ができるか?」

 彼らはそう言って、GKを数字として入れないことを許さない。
 
 マスコミやファンの間では、GKはそこにいる前提になっている。わざわざ数えなくても、GKの1は変わらない。そもそも二人のGKは許されないし、GKなしでスタートもできないわけで、当然のように簡略化されている。

 しかしスペインの指導者は頑固なまで、テキストにはGKの1を入れる。1-4-4-2というのはまだしも、1-4-1-4-1というのは少しわかりにくかったりする。便利さを考えれば、やはりGKの1は入れない方がいいのかもしれない。

 しかし、スペイン指導者講習の年配教授は憤慨していた。

「GKを入れないなんて、リスペクトはどこに行った?それで試合はできるのか?GKがいるからこそ、ゴールは守られる」

 言い返す言葉がない。正論だからだ。
 
 指導者を筆頭にした現場での「正しさ」は、時として欠かせないものだと言える。GKはひとりだけ手が使える"特権"があるわけだが、それだけに失点の罪を背負う。それは極めて厳しい立場であり、相当な覚悟で最後の門番をしている。その選手に対して敬意を失わない、「11人での共闘という精神」がGKを勇気づけるのだ。

「GKの1を入れる? そんな小さなこと、どうでもいい」
 
 それこそ、GKへの冒涜だろう。小さな、どうでもいいことの積み重ねで、失点かそうでないか、勝利か敗北か、の分かれ目となる。

 そして敬意の中で育ったGKは、「チームのために」という頼もしさを感じさせる。決意に満ちていて、挫折にも強い。苦難を乗り越えられることで成長でき、苦しいゲームの中でも踏ん張れる。

 それ故、スペインは代表の正GKであるウナイ・シモン(アスレティック・ビルバオ)を筆頭に、イングランド、イタリア、フランス、ポルトガル、トルコなど各国有力クラブにGKを送り出している。ダビド・デ・ヘア(マンチェスター・ユナイテッド)、ケパ・アリサバラガ(チェルシー)、アドリアン(リバプール)、ロベルト・サンチェス(ブライトン)、ダビド・ラジャ(ブレントフォード)、ペペ・レイナ(ラツィオ)、パウ・ロペス(マルセイユ)、アントニオ・アダン(スポルティング・リスボン)、イニャキ・ペニャ(ガラタサライ)など枚挙にいとまがない。

 少なくとも指導者は、面倒くさがらずにフォーメーションでGKを含めた数字を並べるべきだろう。

文●小宮良之

【著者プロフィール】
こみや・よしゆき/1972年、横浜市生まれ。大学在学中にスペインのサラマンカ大に留学。2001年にバルセロナへ渡りジャーナリストに。選手のみならず、サッカーに全てを注ぐ男の生き様を数多く描写する。『選ばれし者への挑戦状 誇り高きフットボール奇論』、『FUTBOL TEATRO ラ・リーガ劇場』(いずれも東邦出版)など多数の書籍を出版。2018年3月に『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューを果たし、2020年12月には新作『氷上のフェニックス』が上梓された。

【動画】ドイツ戦、スペイン戦で勝機はあるのか。関塚隆に訊く「W杯本大会への10の質問」

【PHOTO】日本代表を応援する「美女サポーター」を厳選!
 

次ページ【動画】ドイツ戦、スペイン戦で勝機はあるのか。関塚隆に訊く「W杯本大会への10の質問」

みんなにシェアする
Twitterで更新情報配信中

関連記事