今季限りで引退の奥川同僚FWが負傷…称賛を浴びた敵エースの対応が示した“繋がり”。「サッカーは勝点やゴール以上の存在」【現地発】

2022年04月10日 中野吉之伴

「もっと早くしなきゃっていう気持ちに…」

味方同士の接触にスタジアムは騒然となった。(C)Getty Images

 サッカーの試合で激しい競り合いは日常茶飯事だ。ドイツのブンデスリーガでは「ツバイカンプフ」(ドイツ語で1対1の競り合い)に美徳がある。躊躇してボディコンタクトを避ける選手はファンから認められない。だからと言って相手選手を故意にけがさせようとするようなプレーはもちろんご法度だ。勇敢にフェアにぶつかっていき、そこで何ができるかがつねに試される。

 ただ、選手はみんな相手をケガさせないように気をつけてプレーをしてはいるが、時に不運の重なりもあって、危険なケガが起きてしまうこともある。先日、奥川雅也がプレーするビーレフェルトと日本代表MF遠藤航と伊藤洋輝が所属するシュツットガルトが相まみえた一戦で痛々しいシーンがあった。アディショナルタイム4分を迎えたスタジアムに鈍い音が響いた。

 途中出場のFWファビアン・クロスが空中戦でボールを競りにいこうとしたとき、同じようにボールへ向かってきた味方のアレッサンドロ・シェプフと頭同士で激突。シェプフは事なきを得たが、クロスはグラウンドに横たわったまま。主審のパトリック・イットリヒは試合を中断し、ファンの心配そうなざわめきがスタジアムを覆っていた。

【動画】敵エースの負傷に担架を持って走る。称賛を浴びたカライジッチの振る舞い
 そんな中、異常にいち早く気づいたシュツットガルトのクロアチア代表FWサシャ・カライジッチはタンカを運ぼうとするスタッフの元へ駆け寄ると、「速く、速く!」と大きなジェスチャーでアピール。いてもたってもいられずにタンカを奪い取るとクロスの元にダッシュで駆けつけた。スタッフはそのあとを懸命に追いかける。

 ビーレフェルトファンからは大きな拍手が起こっていた。カライジッチは試合後「僕は助けたかっただけなんだ。もっと早くしなきゃっていう気持ちになっていたんだ」と振り返っていたが、あの時、そこにいたみんなの気持ちは間違いなく一つになっていたことだろう。

 ビーレフェルトのクリストフ・クラマー監督は「素晴らしいことだと思った。相手チームだとかそういうことじゃない。あの時サシャはファビアン・クロスのためだけを大事にしてくれていた。いまの時代、こうしたサインを見せてくれるというのはとても大切なことだと思う。心から感謝している」と試合後の記者会見で感謝の言葉を口にしていた。
 

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