主将のブスケッツを叱り飛ばし…シャビはいかにして“記録的な速さ”でバルサを立て直したのか。番記者が明かす舞台裏【現地発】

2022年04月03日 エル・パイス紙

「想像以上に大変な仕事になる」

悩めるバルサを見事な手腕で再建したシャビ。(C)Getty Images

 シャビの加入を境に、シウタ・エスポルティバ・ジョアン・ガンペールの窓が開かれ、新鮮な空気が流れ始めた。バルセロナのように規模が大きいゆえにマネジメントが難しく、自浄作用が働きにくい組織においては大きな変化は得てして小さなディテールに起因するものだ。

 カンプ・ノウには随分前からエゴが充満していた。明確なコンセプト、協調性、リーダーシップを連想させる楽観主義者のシャビにとってドレッシングルームの緊迫した空気を和らげることは不可欠だった。

 ジョアン・ラポルタ会長はすっかりシャビに惚れ込んでいる様子だ。2008年に招聘したジョゼップ・グアルディオラがそうだったように、バルサイズムを体現する指揮官に全幅の信頼を寄せている。

 バルサの一監督のプロジェクトがカンプ・ノウの祝福を受けるには、サンティアゴ・ベルナベウを征服する必要がある。「ペップ・バルサ」は6-2でレアル・マドリーを撃破した。先日のクラシコでの4―0の勝利はそれだけ重要な意味を持つ。いうなれば、シャビはこの結果により監督としての品質保証書を手にしたのだ。

【動画】バルサが怒涛の4ゴール!衝撃の結果に終わったエル・クラシコ
 シャビはそもそも自己紹介する必要がない。彼にとってバルサは我が家同然であり、太陽がどこから昇り、どうすればドレッシングルームから毒を遠ざけ、ゴタゴタを解決すればいいかを隅から隅まで熟知している。もちろんリオネル・メッシがいるといないのとでは、チームの戦い方もドレッシングルームの雰囲気も一変することは承知済みだ。

 近年のバルサは、メッシの存在感が増すにつれて、チームファーストの姿勢が稀薄になっていた。今シャビが浸透させているコンセプトは、ヨハン・クライフが創出したものだ。しかしまるでその全てがメッシの頭の中に吸収されたように、チームの戦い方が簡略化されていた。

 ポスト・メッシへと舵を切ったバルサに舞い降りたシャビが、選手たちに再教育を施す必要に迫られたのもそのためだ。まさにイロハからスタートし、ポジショナルプレー、ポゼッション、プレッシングを理解させ、原点回帰を図った。

 もっとも、就任当初は苦戦を強いられた。レジェンドにチームを託す人事は必ずしも好結果に結びつくとは限らない。ユベントスのアンドレア・ピルロやチェルシーのフランク・ランパードがそうだったようにかつてのチームメイトを監督として指導する場合、難易度は一層高まる。

 ましてやメッシの存在がチームの病巣をカモフラージュしていたバルサは、メスを入れる大掛かりな治療を必要としていた。カンプ・ノウに到着して数日後、シャビはクラブのスタッフにこう打ち明けたという。「これは想像以上だ。大変な仕事になる」。

 シャビが素晴らしかったのは、アンス・ファティの負傷、ウスマンヌ・デンベレの契約延長交渉決裂、チャンピオンズ・リーグのグループステージ敗退など様々な深刻な事態に直面しても、決して持ち前の楽観的姿勢を崩さなかったことだ。どんな時も陽気さを失わず、家族の一部といっていいバルサイズムの信奉者に囲まれながら、打開策を模索し続けた。

 シャビは生粋の現場人間でもある。練習方法を考案したり、映像を見て個別にフィードバックするのが大好きで、試合中もボールロストを犯した主将のセルヒオ・ブスケッツを叱り飛ばすなど、選手とともに戦う姿勢を全面に出している。
 

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