努力を普段着に、日々を全力で生きる山瀬功治。J通算600試合出場まで、あとひとつ

2022年03月10日 藤井雅彦

ゴールシーンを見返した本人も思わず「うまっ!」

今季は山口で新たなスタートを切った山瀬。2節・秋田戦ではシーズン23年連続弾となる移籍後初ゴールを決めた。写真:滝川敏之

 2000年シーズンに札幌でキャリアをスタートさせ、以後、浦和、横浜、川崎、京都、福岡、愛媛と渡り歩き、プロ生活23年目の今季は山口でプレーする。

 新天地では開幕戦で途中出場からピッチに立った山瀬功治は、先発した2節・秋田戦でさっそく移籍後初ゴールをマーク。シーズン連続得点を更新した。翌節の新潟戦でもスタメンに名を連ねるなど、チームの重要戦力として奮闘中だ。

 これまでJ1では288試合、J2では311試合に出場し、J通算600試合出場まであと1試合に迫った男の生き様とは――。

――◆――◆――

 開幕直後に記録されたJリーグ23年連続得点は、惚れ惚れするほど美しかった。

 ペナルティエリア内でボールを引き出す動きから左足でトラップし、同時にパス、ドリブル、そしてシュートと複数の選択肢を持てる身体の向きを作る。次に右足を鋭く踏み込んで対峙したDFの動きを止めると、すぐさま左足を振り抜いてGKのニアサイドを射抜く。道程すべてが計算し尽されたかのように流麗な得点だった。

「うまっ!」

 多くのサッカーファンが瞬時に抱いたこの感想は、ゴールシーンを映像で見返した山瀬本人が思わず発した言葉である。

 シュートに至る過程は無我夢中で「無意識に身体が動いた」。そのため試合後のヒーローインタビューでもロジカルに解説できず苦労する様子が見受けられた。

 のちにビューティフルゴールを決めたことに気づく。DFやGKにとってはプレー速度もタイミングもお手上げ。シューターが無意識なのだから、リアクションする側が予測して止めるのは至難の業である。
【関連動画】「うまっ!」レノファ山瀬、自画自賛の鮮やかフィニッシュでシーズン23年連続弾となる移籍後初ゴールをゲット!
 わずか2か月前の昨年末は所属チームが見つかっていない状況で、もしかしたら現役引退を迫られる困難に直面していた選手だ。そんな40歳の大ベテランが第2節にして、加入したばかりの山口を勝利に導くゴールを決める。押しも押されもせぬJリーグが誇るレジェンドのひとりだろう。

 山瀬のすごさは変わらないこと。愛媛に契約満了を告げられてから山口加入が決まるまでの約1か月も「自分が何か新しい試みをスタートさせたかといえば、そんなことはひとつもない」と涼しい顔で事もなげに言う。日々を全力で生き、努力を普段着にしているから、ネガティブな事象に振り回されない。

 一方で、若き日の山瀬を知っている者ならば、プレースタイルの変化に年月の流れを感じるはず。

 かつて日本代表の背番号10を付けていた頃は、元ブラジル代表のロナウジーニョを手本とするドリブルで名を馳せた。20代半ばから後半にかけては肉体の絶頂期でもあり、アタッカーとしての完成期を過ごした横浜時代は原点といえる時期だ。

 それが30代半ばを過ぎてからは冷静かつ堅実な立ち回りでチームにプラスアルファをもたらす黒子に姿を変えた。「器用貧乏でいい」とは言い得て妙で、現在の自分に何ができるのか、何をすべきかを客観視しながら把握できている。そこにちっぽけなプライドは存在しない。
 

次ページすべてを通過点にして先だけを見据える

みんなにシェアする
Twitterで更新情報配信中

関連記事