「寂しいサッカー人生ですね」とうそぶく中村俊輔。トラウマを抱え、恐怖と隣り合わせでも「楽しい」と言える理由

2022年02月15日 広島由寛(サッカーダイジェストWeb編集部)

「練習メニューがこうなら、あれを狙ってみようかな、とか」

プロ26年目。気の利いたジョークなど大人の余裕を感じさせる俊輔だが、その実は今も変わらずサッカー小僧だ。写真(1月に撮影):塚本凛平(サッカーダイジェスト写真部)

 横浜FCの2022年シーズンのユニホームはどうか? 「着心地は、あんまり気にならない」という中村俊輔は、「それよりもデザインとか、首のところがどうかとか、きつさとか。人それぞれ好みがあるから」と続ける。

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「今年は(首の周りが)ちょっと緩い感じだけど」と感想を述べると、あえてキリっとした表情を浮かべ「でも気は引き締めて」とおどけてみせる。

 何気ない会話の中でジョークを飛ばす。先日のオンラインでのインタビュー取材でもそうだ。欧州の舞台でも、日本代表でも成功を収めた男は、自身のキャリアを振り返り、「寂しいサッカー人生ですね」とうそぶく。

 もっとも、たとえ冗談だとしても、"寂しい"というフレーズが口をついて出てくるには、それなりのワケがある。「恐怖に襲われてサッカーをしているから」。中学時代のある経験が、今も俊輔の中ではトラウマになっている。

 横浜のジュニアユース時代。どんなプレーをすれば指導者から評価されるかは分かっていたが、「俺は俺のプレーでいいや」と自分を曲げなかった。そのスタンスは良い方向に転がらなかった。「中3で身長が伸びなくて、ベンチ外になって……」。後に進学した桐光学園で力をつけ、その名を全国に轟かせることにはなるのだが、ユースに昇格できなかったのは、ひとつの挫折だった。

「置いて行かれる感覚、落ちていくのが分かるから。怖いんだよ。怖いから、高校に入ってから自主練も覚えたし。恐怖だから、先に予習とかしたくなる」

 その積み重ねのサッカー人生を"寂しい"と表現する。43歳となった今も、常に恐怖と隣り合わせだと認める。
 
 ところが、だ。「怖いけど」と吐露する一方で、恐怖心や怯えを一つひとつ潰していく作業が「楽しいんだよね」とやわらかい笑顔を見せる。

「サッカーの話をしたり、イメージしたり、映像を見たり。誰かに伝えるとかじゃなくて、自分がまだ選手としてやれているのが、やっぱり嬉しいんだ」

 プロ26年目。大御所である。もっとドンと構えていてもいいはずだが、貪欲に自分を高めようとする。

 今季の横浜FCは、指揮官に四方田修平新監督を迎えた。新たなスタイルに、いかに適応していくか。試行錯誤が続くなか、俊輔はまるで若手のように嬉々として語る。

「たとえば今日の練習で、もっと良いプレーができたはずだってなれば、映像とか見て、自分のプレーをどう織り交ぜるかを考えたり。それで明日はこういうプレーがしたいな、とか。練習メニューがこうなら、あれを狙ってみようかな、とか。そういう感じだよね」

 稀代のファンタジスタは、相も変わらずサッカー小僧だ。

取材・文●広島由寛(サッカーダイジェストWeb)

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