R・マドリーも日本代表も採用するカウンター戦術。“効率”だけを追い求めるとサッカーの質は下がる【小宮良之の日本サッカー兵法書】

2022年02月05日 小宮良之

「セカンドボールが拾えなかった」

アンチェロッティ(左)率いるマドリーと森保監督が指揮する日本代表は、ともにカウンター主体のサッカーを展開する。(C)Getty Images

 チームをどのように動かすのか。采配の妙が、勝敗を左右する。敵を知り、己を知れば百戦して百戦して危うからず。大胆かつ細心な用兵を駆使することができたら無敵だ。

「重装歩兵で敵の主力を足止めし、騎馬隊が機動力を生かして迂回し、敵の心臓を抉る」

 歴史に名を轟かせるアレクサンドロス大王は、その戦いで巨大なペルシア王国を打ち破って滅ぼし、ヨーロッパからインドまでを支配を広げる巨大帝国を作っている。

 守りを固めることで、相手の綻びを誘う。受け止めることができたら、消耗戦は攻めている方が焦れる。そこで、隙を突いた逆襲に転じることができるのだ。

 その戦いは、まさにサッカーで世界のスタンダードになっている。まずは相手の攻撃を止め、カウンターに優れた選手を配置。最も効率が良い戦い方だ。

「相手に攻めさせて、それを受け止めながら、カウンターに出る。これは一つの戦い方。我々の選手たちは、守ることに何のストレスも感じていない。そこが強さと言えよう」

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 名将カルロ・アンチェロッティは言う。今シーズン、ラ・リーガの首位を快走するレアル・マドリーの戦い方は、アレクサンドロス大王流だ。

 MFカゼミーロ、DFダビド・アラバ、エデル・ミリトン、そしてGKティボー・クルトワと分厚いディフェンスを張り巡らし、相手にボールを持たせつつ、誘い込んでからカウンターを放つ。守りに入っているわけだが、気持ちは守っていない。前線にはカリム・ベンゼマ、ヴィニシウス・ジュニオール、ロドリゴという"騎兵"が攻めの手立てとして整えてあるのだ。

 実は森保一監督が日本代表で採用している戦い方も、この発想と大きな差はない。守りを分厚くしつつ、前線はカウンターを運用するための起用が基本になっている。効率を目指した戦術だ。

 しかし皮肉なことに、効率に没頭するとサッカーの質は下がる。ボールプレーをないがしろにした戦い方になってしまうと、改善、上達がない。そこでチームには空洞が広がり、取り返しがつかないことになる。構造だけを真似すると、見栄えの良いものにはならない。

「セカンドボールが拾えなかった」

 Jリーグでは、カテゴリーが低くなればなるほど、試合総括でそう語れることがしばしばある。人海戦術で守りを固め、リスクを避けてボールを蹴りまくり、それがミスを誘ってカウンターになれば御の字という戦いが生み出した結果だろう。本来、セカンドボールは局面に過ぎず、その前後のボールを持っている、持っていないときの判断やスキルやコンビネーションが問われるべきだ。

 どんな偉大な戦略家のプレーコンセプトも、それを運用する将軍や兵士次第で、どうにでも転ぶということだろう。

文●小宮良之

【著者プロフィール】
こみや・よしゆき/1972年、横浜市生まれ。大学在学中にスペインのサラマンカ大に留学。2001年にバルセロナへ渡りジャーナリストに。選手のみならず、サッカーに全てを注ぐ男の生き様を数多く描写する。『選ばれし者への挑戦状 誇り高きフットボール奇論』、『FUTBOL TEATRO ラ・リーガ劇場』(いずれも東邦出版)など多数の書籍を出版。2018年3月に『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューを果たし、2020年12月には新作『氷上のフェニックス』が上梓された。

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