「辛い瞬間だ…」あまりに唐突な引き際となったアグエロ。その無念さは計り知れない【小宮良之の日本サッカー兵法書】

2021年12月23日 小宮良之

「選手として勝ち続けたかったけど…」

引退会見で涙を流しながら、キャリアを振り返ったアグエロ。(C)Getty Images

「引き際」

 それには様々な形があるだろう。ケガ、年齢、実力不足、セカンドキャリアなど引退理由はたくさんあるし、静かに時が来たことを悟って退く形もある。50歳を過ぎても現役を続ける選手がいる一方、20代でワールドカップのピッチを最後に引退する選手もいる。何が正解か、は分からないが、自分で決断できる限り、プロサッカー選手として幸福と言えるだろう。

 アルゼンチン代表FWで、FCバルセロナに所属するセルヒオ・アグエロは、あまりに唐突な引き際となった。今年10月の試合で不調を覚え、精密検査を受けたところ、「不整脈」という診断で、チームを離れていた。医学的に改善できる余地を探し、手を尽くしたという。しかしドクターストップがかかって、スパイクを脱がざるを得なかった。
 
 33歳という年齢で、バルサに移籍したばかり。ふくらはぎのケガからようやく復帰したところだった。そこで、心臓の疾患が見つかったのは、命の危険を考えたら、幸せとも言えるが…。
 
 「辛い瞬間だね」

 引退会見に臨んだアグエロは言葉を絞り出している。

「5歳でボールを蹴り始めてから、プロサッカー選手を夢見てきた。医師から電話で『プレー続行は難しい』と伝えられた時、まだ希望を持っていた。ただ、やはり難しくて。これが33歳という年齢で起きたことだから、サッカー選手として誇りを保てるとも思う。もっと前でなくてよかったと思うしかない。選手として勝ち続けたかったけど、今まで勝ち取ってきたもので満足しないとね」

 その無念さは計り知れない。ほとんど強制的にキャリアを閉じさせられることになったのだ。

「17歳の時、インデペンディエンテ時代にラシン戦で決めたゴールはとても美しかった。アトレティコでは、ヨーロッパリーグで決めた得点かな。マンチェスター・シティでは、クイーンズ・パーク・レンジャーズ戦でのゴールだろう。バルサでは、レアル・マドリー戦で決めることができた。最後のゴールとしては悪くないよね」

 ストライカーとして生きたアグエロらしく、所属クラブでのゴールを振り返っている。彼が去った後、残るのはゴールの記憶か。それは、彼が生きた証だ。

 個人的には、現場で最後に見た彼のゴールで、ロシア・ワールドカップ、アイスランド戦の一撃は忘れられない。

 サッカー選手たちは短いプレーヤー人生で、あらゆる不条理の中、一日一日を戦っている。だからこそ、人々を魅了するドラマも生まれる。そこに生じる熱量はすさまじい。

「これからもサッカーに関わって生きていきたい」

 そう語るアグエロの"第二の人生"に幸あらんことを。

文●小宮良之

【著者プロフィール】
こみや・よしゆき/1972年、横浜市生まれ。大学在学中にスペインのサラマンカ大に留学。2001年にバルセロナへ渡りジャーナリストに。選手のみならず、サッカーに全てを注ぐ男の生き様を数多く描写する。『選ばれし者への挑戦状 誇り高きフットボール奇論』、『FUTBOL TEATRO ラ・リーガ劇場』(いずれも東邦出版)など多数の書籍を出版。2018年3月に『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューを果たし、2020年12月には新作『氷上のフェニックス』が上梓された。

【動画】アグエロが「シティ時代最高のゴール」に選んだ"伝説の一撃"をチェック!

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