【私が見た玉田圭司】頑固でひたむきで最高のエンターテイナー…長崎での『楽』な日々

2021年11月25日 藤原裕久

実に頑固な男である。その頑固さの根底にあったのも…

長崎には19年から在籍。熟練の技術を披露した。写真:金子拓弥(サッカーダイジェスト写真部)

 2021年シーズン限りで現役引退を発表した玉田圭司。その輝かしいキャリアを様々な記者に振り返ってもらう。長崎の番記者が見たのは、自身のサッカー観を貫く姿勢だった。

―――◆―――◆―――

 玉田圭司の現役引退が発表されてから、長崎で彼を取材した日々を思い出している。2019年シーズンに加入してからの3年、新型コロナウイルス感染症が蔓延したために十分な取材ができない時期もあったが、印象深かった取材を思い返すと、常に『楽』の文字が浮かぶ。どんな環境や状況にあっても誰よりもサッカーを楽しみ、そのために決して楽をしようとはしなかった男。それこそ私が長崎で取材をした玉田圭司という選手だった。

「初めて一緒にプレーする選手が多いので、キャンプでコミュニケーションを取っていきたい。やっているうちに言いたいことも出てくると思うので、話し合って良い方向へもっていければ」

 2019年シーズンの始動にあたり、そう語る玉田の顔には楽しさが漲っていた。加入直後の沖縄キャンプでも周囲の選手へ積極的に話しかけ、新しい監督、新しいチーム、新しい街、新しい挑戦に胸躍らせているようで、その姿勢はシーズンが始まっても揺らぐことはなかった。
 
 2019年シーズン、堅守速攻からポゼッションスタイルへと転換を図る真っ只中のチームは他を圧倒する戦力を持ちながら苦戦が続いた。チーム内外からスタイル変更への賛否が相次ぐなか、得点だけにこだわるのではなく、攻撃全体にバランスとアクセントをもたらそうとする玉田のプレースタイルに批判が集まることもあった。それでも玉田のサッカー観に揺らぎはなく、周囲との対話も諦めはしなかった。

「たくさん話はしていますよ。人間って簡単に変わるもんじゃないけど、それでも言い続けることで、その選手の頭の片隅にでも残れば良いと思う。それで、チームが向上すればもっと良いことだしね。それは続けていきたい。言いたいことは言って、言われた選手が俺にも言う、そうやって言い合うことが大事だと思うんで。そういうのはウザいなって思われるくらいに言っていきたい(笑)」

「サッカーはひとりでやるもんじゃないから、誰かのプレーに共感したり、いろんなプレーを共有することが大事になる。今はそれが足りないなと思う。だから、これから先の戦いでは、お互いを知るっていうことを突き詰めたい。そこですね、こだわりたいのは」

 実に頑固な男である。その頑固さの根底にあったのも「楽」だった。

「楽しくサッカーしたいというのがあるんでね(笑)。勝つことは嬉しいけど、見ている人もやっている選手も楽しいと思えるサッカーで戦って、その上で勝利するのが俺のスタンスでもあるんで」

次ページ引退発表まで楽しむ材料に変えてしまうあたりが、玉田らしい

みんなにシェアする
Twitterで更新情報配信中

関連記事