【連載】小宮良之の『日本サッカー兵法書』 其の二十五「9番を軽視すべからず」

2015年07月02日 小宮良之

ブラジルの覇権は、ストライカーによって成り立っている。

パラグアイに敗れ、ベスト4でコパ・アメリカを去ったブラジル。ネイマールを出場停止で欠くなか、得点欠乏症に陥っていた。(C)Getty Images

 南米チリで日々、激闘が繰り広げられているコパ・アメリカ。優勝候補の"セレソン"ブラジルは準々決勝でパラグアイ相手にPK戦で散り、無念の敗退に終わった。
 
「9番不在」
 
 その問題点を指摘する声は少なくない。
 
 今大会のブラジルには、ゴールに近いポジションを積極的に取る選手が見当たらなかった。FW登録のジエゴ・タルデッリはエリア内に踏み入るのを嫌っているかのようで、サイドやボランチのような位置にいることも少なくなく、同じくフィルミーノも前線には漂うものの、強い意志を感じさせず、ほとんどの時間で消えていた。ゴールするポジションに選手が不在で、ブラジルの攻撃はエリアの周りをうろつくだけになった。
 
 では、本当にブラジルには9番がいないのか?
 
「いない」
 
 そう答えるのは、どうも不当な気がする。
 
 2014-15シーズン、欧州各国リーグでは多くのブラジル人得点王が生まれている。トルコリーグのフェルナンドン、ロシアリーグのフッキ、ウクライナリーグのアレックス・ティシェイラ。さらに、シャフタール・ドネツクのアドリアーノはチャンピオンズ・リーグ得点ランク4位、ベンフィカのジョナス、リマはポルトガルリーグの得点ランクで2、3位に名を連ねた。
 
 歴代のストライカーたちと比べれば、大きなスケールダウンは間違いないが、9番の手札がないわけではない。ジエゴ・タルデッリは山東魯能でゴールどころか、プレー機会にも恵まれず、フィルミーノはブンデスリーガで中位クラブのトップ下としてプレー。実質、旬のストライカーはひとりも選ばれていなかったのである。
 
 チームとして、「ストライカー軽視」という戦略ミスはなかったのか?
 
 過去にワールドカップを制したブラジル代表には、チームの旗色を左右する苛烈なストライカーたちがいた。ペレ、ロマーリオ、ベベット、ロナウド。ブラジルはこうした点取り屋たちに導かれ、世界の頂点に立った。陽気なサンバのリズムを生み出していたのは、中盤のスキルのある選手たちかもしれないが、それを完結していたのはゴールゲッターだったのである。
 
 スペクタクルな技術は、ゴールに結びつける"手段"でしかない。例えば82年ワールドカップのセレソンは、名手ジーコら中盤のカルテットが目眩くパスワークを見せたが、結局は大会を勝ちきれなかった。ゴールという"目的"を果たせるストライカーによって、ブラジルの覇権は成り立っているのだ。
 
 昨年のブラジル・ワールドカップでも、そして今回のコパ・アメリカでも、セレソンはネイマールの著しい台頭によってストライカーたちの存在感が薄れていた。それどころか、ネイマールを中心にした中盤の選手が気持ち良くプレーするため、FWは動かざるを得なかった。実際、それによってネイマールの得点数は増えたものの、エースがいなくなった途端、得点欠乏症に陥るのは自明の理だったのである。

次ページ日本が世界と台頭に戦うためには、岡崎を中心に布陣を組むべき。

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