ユナイテッドを追い詰めた“最高の戦術家”――ビジャレアル指揮官エメリの「特別な手腕」【小宮良之の日本サッカー兵法書】

2021年10月19日 小宮良之

ロナウドを封殺していたが…

ビジャレアルを率いて2年目となるエメリ監督。(C)Getty Images

 戦術的に整備することで、試合を優位に進められる可能性は高くなる。ポジショニングの確立、ボールの動かし方、プレッシングやリトリートの質、あるいはセットプレーのバリエーションもあるだろう。

 ビジャレアルのウナイ・エメリ監督はその点で、「最高の戦術家」と言えるかもしれない。昨シーズンは、ヨーロッパリーグで優勝したが、セビージャ時代にも3連覇の経験がある。中堅クラブで戦力を糾合し、最大限の力を発揮させる手腕は特別だ。

 今シーズン、エメリ率いるビジャレアルは、チャンピオンズ・リーグのグループステージでマンチェスター・ユナイテッドと対戦している。序盤から、戦術的には優勢に試合を進めていた。まずは、エースであるクリスチアーノ・ロナウドを封殺。ポジション的優位からアドバンテージを取って、思うようにプレーを組み立てさせず、攻撃ではボールを失ってもすかさず奪い返し、波状攻撃を仕掛けた。セットプレーのバリエーションも多く、効果的だった。

 前半、右CKでダニエル・パレホがニアに合わせると見せかけ、スルーで裏に通す。そこで左足キックに定評のあるアルベルト・モレーノが、ミドルで合わせた。ゴールにはならなかったが、"赤い悪魔"の心胆を寒からしめた。

 そして後半に入って52分には、コンビネーションから教科書のような崩しを見せる。センターバックのパウ・トーレスが中盤に落ちてきたFWパコ・アルカセルに左足でグラウンダーの縦パスを入れる。ダイレクトで落としたボールを、パレホがパコと入れ替わるようにラインを破ったマヌ・トリゲロスに入れ、トリゲロスがこれをフリーで運び、左のアルノー・ダンジュマへ。ダンジュマがニアに速いボールを折り返し、これに飛び込んだパコが右足先の技巧的シュートで流し込んだ。

 ビジャレアルは勝利にふさわしいゲームをしていた。

【動画】最後はC・ロナウドのAT弾で決着! マンチェスター・U対ビジャレアルの1分ハイライト
 しかし、マンチェスター・Uが戦力的な優位性を生かし、反撃に出る。59分、アレックス・テレスは右FKをダイレクトボレーで叩き込む。崩し切ったわけではなかったが、個の力で圧倒した。

 そして後半アディショナルタイムだった。この日、ほとんど仕事ができなかったC・ロナウドがエリア内で飛び抜けた跳躍力でヘディングに競り勝って、味方にボールをつなげる。そしてリターンパスを思い切りゴールネットに叩き込んだ。

 実はビジャレアルは、2点目を取るチャンスがいくつもあった。しかしマンチェスター・Uの守護神ダビド・デヘアのファインセーブに阻まれている。言ってみれば、2発に沈んだ。

 エメリのサッカーは極めて論理的である。それは半ば、成功していた。称えるべきプレーだった。しかし、最後はデ・ヘアとロナウドの個に敗れた。それも、サッカーである。

文●小宮良之

【著者プロフィール】
こみや・よしゆき/1972年、横浜市生まれ。大学在学中にスペインのサラマンカ大に留学。2001年にバルセロナへ渡りジャーナリストに。選手のみならず、サッカーに全てを注ぐ男の生き様を数多く描写する。『選ばれし者への挑戦状 誇り高きフットボール奇論』、『FUTBOL TEATRO ラ・リーガ劇場』(いずれも東邦出版)など多数の書籍を出版。2018年3月に『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューを果たし、2020年12月には新作『氷上のフェニックス』が上梓された。

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