フランス代表のNL初戴冠の舞台裏。全てを変えたベルギー戦のHT、ロッカールームで何が起きていたのか?【現地発】

2021年10月11日 結城麻里

デシャン監督は選手たちに何を語った?

ネーションズリーグ制覇を果たし、満面の笑みを見せる選手たち。(C)Getty Images

 現地時間10月10日、スペインを2-1で下してUEFAネーションズリーグを制覇したフランス代表。だがそこには、あるストーリーが隠されていた。準決勝ベルギー戦(7日)で、レ・ブルーに何かが起きたのである。
 
 この夜、フランスは、ベルギーに0-2とリードを許して前半を終了。ロッカールームに戻るときのフランス選手たちは、自己嫌悪に満ちた暗い表情で、がっくり肩を落としていた。対照的にFIFAランキング1位を誇るベルギーのサポーターたちは、トリノのスタンドで「ここは我が家だ、ここは我が家だ」と明るい歌を合唱していた。

 ところが15分間のハーフタイムを経てピッチに戻ったフランス選手たちは、別人のように変貌、凄まじいインテンシティをつけ、個の力とコレクティブな力を結合し、最終スコア3-2で大逆転してしまったのである。

 ブラジル・ワールドカップ(W杯)出場をかけた「世紀の大逆転」(ウクライナ戦)ほどではなかったが、確かに何かが起き、ギクシャクが消え、「チームができた」印象だった。このため試合後、記者から「ハーフタイムに何が起きたんですか?」の質問が飛んだ。

 するとポール・ポグバは、「きっとビデオで見られるんじゃないかな」と明言を避け、「日曜のファイナルに勝利した後に、俺たちが(今夜)ロッカールームで言い合ったことを、みんなも発見できるといいな、と思っているよ」と語った。言いたそうにしながらも、ぐっとこらえた様子だった。これで謎はますます深まった。

 そして記者団の謎解き取材が始まり、「どうやらこうらしい」という大枠が見えてきた。
 
 実は前半の終了間際、ディディエ・デシャン代表監督とギー・ステファン助監督(アシスタントコーチ)は、ベンチで冷静に議論を交わしていた。これはテレビカメラもとらえており、「0-2で大苦戦しているのに監督は何もしない。システムも変えなければ、選手交代もなし」「ストイックなまでに状況を受け入れている」と批判さえ出ていた。
 
 ところがまさにそこで決断が下されたという。「システム(4-3-1-2)が原因ではない。コレクティブな反抗を起こすことだ」――。

 そこでロッカールームでは、デシャン監督がまずこう分析した。「おい、みんな、下がりすぎている。ブロックが低すぎだ。アグレッシブさも不十分。みんなで守ることもしていなくて、それぞれが誰かの後ろに隠れている。目の前にいるのは世界屈指のチームなんだぞ。我々が関与度やインテンシティのレベルを上げなかったら、やり遂げられない」

 次いでこう鼓舞したという。

「自分たちを解き放て! 立ち上がり20分間はよかった。ゴールさえ決めれば、絶対に追いつける。まだ終わっていないぞ!」
 
 そしてポグバが、力の限り大声で叫んだという。

「おい、みんな! 俺たちはフランス代表なんだぞ! もし"死ななくちゃ"いけないなら、全員一緒に"死ななくちゃ"いけないんだ!」

 次いで副主将ラファエル・ヴァランヌと主将ユーゴ・ロリスも、それぞれリーダーとして発言、「もっとインパクトを」「頭を上げろ」「まだ終わりじゃない」と強調したそうだ。

次ページこうしてEUROで失敗したフランスの逆襲が始まった

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