「気持ちを見せ、戦う」ピッチで一人だけ異彩を放った長友佑都。R・マドリーの選手にも共通する“メンタリティ”【小宮良之の日本サッカー兵法書】

2021年09月27日 小宮良之

湧き上がる熱が力を最大限に引き出す

11年ぶりに復帰した古巣で熱いプレーを披露している長友。写真:徳原隆元

「気持ちを見せ、戦う」

 それだけで物事は解決しないが、それがなかったら始まらないのがサッカーでもある。気持ちはメンタリティとも言い換えられるか。カタカナにすると、その正体が難解になるが、本来は単純で熱のようなものだ。

 例えば、長友佑都がJリーグのFC東京へ11年ぶりに復帰した横浜FC戦、彼自身はそこまで目立ったプレーはしなかった。しかし誰よりも声を出し、味方を鼓舞し、指示を出し続け、戦う気持ちは感じられた。その熱が全体に伝播し、チームとして安定した戦いに結びついていた。おかげで集中力が切れず、相手に隙を与えずに、4‐0と完勝につながったのだ。
 
 世界の最前線で戦ってきた長友は、技術以上に戦う者としての流儀を心得ているのだろう。それを周りに伝え、広げることもできる。「気持ちを見せ、戦う」。その点で、ピッチに立った選手の中で一人だけ異彩を放っていた。

 厳しい戦いを勝ってきた人間だけが身につけられるメンタリティというのがあるのだろう。野心を持って戦うことで、その熱は増幅する。湧き上がる熱が力を最大限に引き出すのだ。

【画像】「メッチャ良い表情!」長友佑都と恩師の「激アツ」2ショット!
 
 先日、レアル・マドリードはバレンシアとアウエーで対戦し、形勢不利なままで先制点を許し、終盤を迎えていた。言い知れぬ敗色ムードが漂いつつあった。しかし、ピッチに立つ選手は不屈さを見せる。ヴィニシウス・ジュニオール、カリム・ベンゼマの二人がゴールをこじ開け、逆転勝利を飾った。これぞ、世界に冠たるクラブの矜持だ。

「プレーの質で勝ったわけではないが、スピリットで勝利を収めた。決して服従しないスピリットというのか」
 
 マドリーのイタリア人指揮官カルロ・アンチェロッティはそう説明している。

「我々は冷静さを保って戦うことができた。決してスペクタクルな試合をしたとは思っていない。まだまだ改善すべきところはあるし、ディフェンス面でもっとアグレッシブに行くべきだろう。しかし、屈しないスピリットがあれば問題を解決することができる。このチームの選手は十分なプレークオリティを持っていて、私の仕事はそれをチームのために一つにすることだ」

 マドリーのような卓越した技術、肉体を持った選手を集めたチームでも、うまくいかない試合はある。しかし気持ちさえ折れなければ、技術を信じ、綻びを修正し、正念場でパワーを出せる。それ故、監督は選手にパーソナリティを求め、強い気持ちで戦える選手を束ね、強敵に向き合うのだ。

「気持ちを見せ、戦う」
 
 それは相手とのコンタクトプレーが基本にあるサッカーにおいて、なくてはならないものだ。

文●小宮良之

【著者プロフィール】
こみや・よしゆき/1972年、横浜市生まれ。大学在学中にスペインのサラマンカ大に留学。2001年にバルセロナへ渡りジャーナリストに。選手のみならず、サッカーに全てを注ぐ男の生き様を数多く描写する。『選ばれし者への挑戦状 誇り高きフットボール奇論』、『FUTBOL TEATRO ラ・リーガ劇場』(いずれも東邦出版)など多数の書籍を出版。2018年3月に『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューを果たし、2020年12月には新作『氷上のフェニックス』が上梓された。
 

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