【識者の視点】今後の代表強化にも影を落とすシンガポール戦のドローが持つ意味

2015年06月17日 加部 究

サイドチェンジからのクロスに活路を求めるなら、最初から2トップの方が効率的だった。

初の公式戦で“アジアの洗礼”を受けることになったハリルホジッチ監督。「怖くない相手だった」かもしれないが、今後の仕事の難しさを実感したはずだ。写真:小倉直樹(サッカーダイジェスト写真部)

 ヴァイッド・ハリルホジッチ監督は、実に正直に胸の内を明かしたと思う。
「私は負けるかもしれないと、それが少し怖かった。これほどのチャンスを決められないと、逆に最後の最後に決められて終わる。しかしシンガポールには、すでにその体力が残っていなかった」

【PHOTOギャラリー】日本 0-0 シンガポール
 
 残り10分、相手陣内で酒井宏樹が、目の前のハフィス・スジャドにプレゼントパスをしてカウンターを食った瞬間、おそらく指揮官は敗戦の可能性に慄いた。
 
 一方会見の冒頭では、シンガポールについて、こう語っている。
「守備しかして来ないことが予想され、ほとんど怖くはない相手だった」
 矛盾しているようにも聞こえるが、つまり終盤にかけて指揮官は、相手というよりは、試合の推移が不気味に感じられたに違いない。
 
 当然就任前には、同じように再三チャンスを築きながらPK戦の末に敗れたアジアカップのUAE戦もチェックしている。それでも抜本的な改革を施せば日本を変えられると確信して就任したのだろうが、この夜は改めて日本の病巣の深さと、今後の仕事の難しさを実感したのではないだろうか。
 
 4-5-1のブロックを築くシンガポールに対し、ハリルホジッチ監督が準備した対策は「逆サイドへの斜めのパスで揺さぶり、そこからクロスを入れる」攻撃だったという。左SBに太田宏介を起用したのもサイドから正確なクロスが必要だったためで「きょうはキミの試合だよ」と送り出したという。
 
 ところが指揮官の意に反して攻撃は中央に偏った。
「中央から崩すなら、もっとフリックを使ったり、2~3本のダイレクトパスを入れたりしなければ、フィニッシュは難しくなる」
 
 だが香川真司と本田圭佑が共存すれば、互いに距離を詰めショートパスを駆使して中央突破に傾くのは、今に始まったわけではない。もしサイドチェンジからのクロスに活路を求めるなら、最初から2トップにしてエリア内のターゲットを確保した方が効率的だったはずだ。またボールを動かしゴールへの道筋を切り拓くためには、運ぶタイプを増やすより、柴崎岳を起点として残しておくべきだったかもしれない。

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