正直、ベスト8が精いっぱい。岐路に立たされたなでしこジャパン【小宮良之の日本サッカー兵法書】

2021年08月07日 小宮良之

成績不振で監督の首が挿げ替えられるのは当然

ベスト8で準優勝のスウェーデンの前に散ったなでしこジャパン。写真:金子拓弥(サッカーダイジェスト写真部/JMPA代表撮影)

 筆者は、なでしこジャパンの五輪直前壮行試合、オーストラリア戦を京都で取材した。しかし試合途中で、メモを取るのを止めている。

「五輪プレビュー原稿を書かない」

 そう心に決めたからだ。

 厳しい言い方をすれば、チームとして勝利の気運が見えなかった。とにかく、得点のパターンが見えない。どのようにボールを回し、運び、どのように攻め崩し、あるいは相手のボールを奪うのか。チームモデル、コンセプトのようなものが、ほとんど伝わってこなかった。

 各選手はそれぞれ奮闘していた。確かに前線の動き出しは少なかったが、高温多湿での戦い方もあるだろう。例えば2011年に世界女王になったメンバーの生き残りである熊谷紗希は、センターバックとして身体を張っていた。

 また、センスを感じさせる選手もいなかったわけではない。右サイドバックの清水理沙は、「サッカーを知っている」という選手だろう。マーキングの強度にやや難はあるものの、周りと連携して守り、サイドのプレーメーカーとしてビルドアップの出口となり、タイミングの良いオーバーラップで攻撃を分厚くもしていた。

 ただ、チームとしての熱、強さが感じられなかった。
 
 残念ながら、高倉麻子監督の求心力の低さもあったか。澤穂希のような稀代のカリスマがピッチにいない以上、高倉監督がチームをマネジメントし、ピッチのリーダーを据える必要もあった。それが監督として果たせなかったことが、結束の弱さにつながっていた。また、監督は外部に向けての発信でチームに好意を向けさせることも能力の一つだが、そこでの信頼も得られていなかった。

 しかし、それを大会前に書くことは非建設的で、不適切に感じた。なぜなら、自分は継続的になでしこジャパンを取材してきたわけではない。大会は目前。そこに至るまでチームは紆余曲折を経たはずで、それを批判・批評するにはバックグラウンドが必要だと感じた。健闘を祈りつつも、楽観的なことを書くこともできず、執筆しなかった。

 結果、グループリーグをどうにか勝ち上がって、ベスト8に入ったことは一つの成果かもしれない。正直、それが精いっぱいのチームだった。イギリス、スウェーデンという強豪には力負けした。

 敗退後、高倉監督の退任、解任が噂されている。現時点では発表はないが、選手全員を替えるわけにはいかない。成績不振で監督の首が挿げ替えられるのは当然だ。

 ただ、監督交代で劇的に変化するのか。それはこのチームを見続ける人が見極めるべきだろう。選手選考から再考の余地はあるし、それは誰がみても不可欠に思えるが、プラスマイナスどちらの作用も必ずある。人を替えただけで、チームは単純に強くなるものではない。

「奇跡のチーム」

 10年前、世界女王になったチームの生き残りである岩渕真奈はそう表現した。その記憶を付きまとう幻影にするか、精神的に受け継ぐべき目標にするか。そこで、なでしこジャパンは岐路に立たされる。

文●小宮良之

【著者プロフィール】
こみや・よしゆき/1972年、横浜市生まれ。大学在学中にスペインのサラマンカ大に留学。2001年にバルセロナへ渡りジャーナリストに。選手のみならず、サッカーに全てを注ぐ男の生き様を数多く描写する。『選ばれし者への挑戦状 誇り高きフットボール奇論』、『FUTBOL TEATRO ラ・リーガ劇場』(いずれも東邦出版)など多数の書籍を出版。2018年3月に『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューを果たし、2020年12月には新作『氷上のフェニックス』が上梓された。
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