精魂尽き果てた吉田が絞り出した言葉が物語る敗因【東京五輪|準決勝スペイン戦】

2021年08月08日 白鳥和洋(サッカーダイジェスト)

優勝候補スペインを相手に死力を尽くすも…

この吉田を軸に日本はスペインを相手に粘り強く守ったが……。写真:金子拓弥(サッカーダイジェスト写真部/JMPA代表撮影)

 予想通りボールは支配された。しかし、サンドバック状態で殴られ続けたわけではない。パンチをかわしつつ、堅守を支えに優勝候補のスペインを消耗戦に引きずり込んでもいる。だが、それでも彼らは勝てなかった。改めて思い知らされたのは、「クオリティの差」だった。

 立ち上がりから日本は、巧みに中間ポジションへと潜り込むペドリやメリーノを捕まえきれず、スペインの素早いパス回しに翻弄される。

 「焦らずに守りながら、カウンターで勝負する」という森保監督のゲームプランも、トランジションスピードで見劣りするため、なかなかフィニッシュには持ち込めない。そして安易に引けば、最終ラインから質の高いクサビを撃ち込まれる。39分にはCBパウ・トーレスからメリーノ、ミルとつながれ、決定的なシーンを作られた。

 それでも、耐えて前半をスコアレスで折り返すと、後半の立ち上がりには自分たちの時間帯も作っている。46分、酒井の右クロスを堂安が叩き、52分にはロングフィードに抜けた旗手の落としから、林が右足を振り抜いた。

 56分、一度はPKとジャッジされたメリーノに対する吉田のタックルがVAR判定で逆にファインプレーへと覆る。流れは日本に傾きつつあるようにも思えたが、勝負所でより鮮明になるのは、チームとしての総合力の差であり、個々のクオリティの差だった。
 
 フレッシュなベンチメンバーを次々と投入し、90分で勝負を決めにかかったスペインは、ラスト15分で立て続けにビッグチャンスを得る。防戦一方となった日本はGK谷の好セーブや板倉のシュートブロックでなんとか凌ぎながらワンチャンスを狙うが、疲労もあって前への推進力が生まれない。

 延長戦の頭から、森保監督は疲労の見える堂安と久保を下げ、三好と前田を投入したが、相手に小さくない脅威を与えていた二枚看板の創造性を手放した判断には、賛否が分かれるだろう。

 実際、存在感さえ希薄だった上田も含め、交代選手が大きな違いをもたらすことはなかった。102分に惜しいヘディングシュートを放った前田も自慢のスプリントは空回りし、唯一評価できるのは、左サイドからアグレッシブに仕掛けた相馬くらいだった。

 そして日本は、115分に力尽きる。左足の美しい一撃で激闘に決着をつけたのは、83分にペドリに代わって途中投入されていたアセンシオだった。「守備から攻撃への切り替えスピードや、決め切るところに課題があった」

 試合後に指揮官はそう話したが、プレー精度、決定力、選手層と、多くの部分で世界のトップとの距離を痛感させられた一戦だっただろう。オーバーエイジの3人を中心によく守ったが、それだけでは善戦が精一杯だった。
 
「最後は、ワンプレーで差が出た」

 精根尽き果てた吉田が絞り出した言葉が、厳しい現実と金メダルへの夢の終わりを告げていた。

構成●サッカーダイジェスト編集部
 
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