五輪初戦での攻撃には速さも迫力もなかった。検証すべきはなぜ岩渕のゴールが生まれたか【編集長コラム】

2021年07月22日 白鳥和洋(サッカーダイジェスト)

ボールをただ繋いでいるだけでは…

良いプレーが続いたからこその同点弾。岩渕の技術が光るシーンでもあった。写真:金子拓弥(サッカーダイジェスト写真部/JMPA代表撮影)

 前半6分に先制され、0-1で迎えた後半に掴んだPKのチャンスをフイにする。負け試合の流れに乗ってしまったなでしこジャパンだが、終盤の84分にどうにか岩渕のゴールで追いついた。

 「よく引き分けた」というのが正直な感想だ。前半は守りを固めたうえでカウンターを狙うカナダを相手にチャンスらしいチャンスを作れず、後半も意図的に崩したシーンは少なかった。端的に言えば、なでしこジャパンはほとんどの時間帯、攻撃の局面でボールをただ繋いでいるだけだった。

 怖さを感じたプレーヤーは、長谷川、岩渕、田中くらいか。スルーパスでPK獲得のきっかけを作り、ロングボールで岩渕の同点ゴールをアシストした長谷川が個人的にはこの日のなでしこジャパンのマン・オブ・ザ・マッチだった。簡単ではないシュートを決めた岩渕や、他の選手に比べてオフザボールの動きがあった田中以上に、きっと長谷川はカナダにとって厄介な相手だったはずだ。

 とはいえ、チームとして見た場合、なでしこジャパンにはほぼ怖さがなかった。緩急がないパスで足もとにボールをつけるアクションを繰り返すアタックは速さも迫力もなかったと言っていい。高い位置でボールを奪えず、低いポジションからの組み立てを余儀なくされたのがスローテンポになってしまった一因だろう。その意味では前線からの守備にも課題を残した。

 7月14日のオーストラリア戦(親善試合)でも感じたのは、パスの出し手と受け手の意思の疎通が低いということ。仕掛けや崩しのイメージを共有できず、連動らしい連動がない。誰を起点に、どう攻めるか。そういう意図がオーストラリア戦でも、カナダ戦でも見受けられなかったのだ。
 
 なでしこジャパンの面々が検証すべきは、岩渕のゴールがなぜ生まれたかという点だ。

 注目ポイントのひとつは、長谷川のパスの受け方。後方からのボールを長谷川がどう受けたか。あの時、長谷川は半身の体勢から前を向く形でトラップ、前線の状況を確認したうえで岩渕にロングパスを送ったのだが、"前向きなトラップ"が効果的なカウンターを発動させるスイッチになっていた。
 
 そしてもうひとつの注目ポイントは、岩渕の動き出し。長谷川がボールを持ったタイミングで、岩渕がDFの裏へ抜け出すアクションを起こせたのはゴールへの道筋が見えていたからこそだろう。要は、ここでどう動けばフィニッシュへ持ち込めるかをイメージできていたということだ。そうでなければ、あれだけ落ち着いてシュートを打てるわけがない。

 カナダ戦の出来では金メダル獲得は非常に厳しい。ただし、ちょっとしたトラップの工夫、先を見据えたうえでの動き出しがチームとしてできるようになれば……。光明は見えてくるかもしれない。

 2011年の女子ワールドカップ、ドイツを破った準々決勝での決勝弾は、良い参考資料になるはずだ。澤の絶妙なスルーパス、丸山の躊躇なしの動き出し、そのシーンに東京五輪でのメダル獲得への大きなヒントがあるような気がする。

文●白鳥和洋(サッカーダイジェスト編集長)

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