【CL決勝プレビュー】シャビとイニエスタ――ふたりの天才パサー、最後の舞台へ

2015年06月05日 豊福晋

ともにピッチに立つのはユーベとのCL決勝が最後。

バルサとスペイン代表で一時代を築いたシャビとイニエスタが一緒にピッチに立つのは、CL決勝が最後。固い絆で結ばれたふたりの天才は、どんなラストダンスを見せてくれるのか。 (C) Getty Images

 かつてジョゼップ・グアルディオラはこう言った。
 
「シャビ・エルナンデスはいつか私を引退させるだろう。そしてシャビは、アンドレス・イニエスタに引退させられることになる」
 
 マシア(バルサの下部組織)から続々と生まれてくる優れたパサーについて、グアルディオラはどこか嬉しそうな目で語っていた。
 
 新たに生まれた選手が、過去の選手からポジションを奪い、その後を引き継いでいく。それこそが正しい流れだとグアルディオラは考えていた。彼が30歳という年齢でバルサを離れた理由のひとつは、才能を秘めた後継者を見つけていたからだ。
 
 それから14年がたったこの夏、シャビがバルサを離れる。35歳の彼はカタールへと向かい、キャリア最後の時間を過ごす。
 
 グアルディオラの予想がひとつだけ外れたとすれば、シャビはイニエスタに出場機会を奪われ、クラブを去ることになったわけではない、ということだ。今シーズン、ベンチから試合を眺め続けたシャビと同じく、いまのバルサではイニエスタの存在も薄れつつあるからだ。
 
 ルイス・エンリケが監督に就任し、バルサのスタイルは大きく変わった。前線にはリオネル・メッシ、ルイス・スアレス、ネイマールという3人が並び、ボールを奪っては縦に速いカウンターアタックが繰り広げられる。
 
 ボールはシャビとイニエスタの足下を経由せずに、前の3人に届けられる。
 
 そこに、ふたりがかつて創り上げたパスサッカーの面影はない。
 
 シーズンを通してシャビはベンチに座り、イニエスタの途中交代も増えた。皮肉にも、シャビとの交代が多かった。シーズン途中、イニエスタは不満さえ漏らしていた。
 
「まるで僕とシャビが一緒にプレーできないみたいだ」
 
 ともに今のバルサを築き上げた存在だ。まだスペインとバルサの黄金時代が訪れるずっと前から、互いの足下にパスを届け、カンプ・ノウを沸かせた。
 
「イニエスタはスペインの歴史上、もっとも才能に恵まれた選手だ」
 
 そうシャビは振り返る。
 
 どちらも足は速くない。練習場でのスピード測定でも、ふたりとも数値は決まって下のほうだった。シーズン二桁得点を決めるようなスコアラーでもない。
 
 それでも、彼らはバルセロニスタに愛された。シャビのパスがカンプ・ノウにリズムを刻み、イニエスタの優雅さはゲームを彩った。
 
 ふたりの両足から、どれだけのゴールが生まれたことだろう。クライファートが、サビオラが、ロナウジーニョが、エトーが、アンリが、そしてメッシが、羽衣につつまれたような繊細なパスを受けてきた。
 
 ふたりがともにピッチでプレーするのは、ベルリンの地が最後だ。決戦を前に、イニエスタはシャビにこんな話をした。
 
「練習場に君の姿がない。そんなこと、僕はまだ想像もできないんだ。シャビ、君は僕らのお手本だった。たくさんの素晴らしい瞬間をともにした。哀しい時も一緒だった。でも僕はいつかまた、君がここに戻ってくることを知っているんだ。シャビ、君の中には、このクラブの血が流れているのだから」
 
 ユベントスとのCL決勝、ふたりがともにプレーする時間はあるだろうか。それとも、そこに見るのは交代でピッチを後にするイニエスタとシャビが抱擁し、交差していく姿か。
 
 ベルリンに訪れる、最後の瞬間。それは、バルサのひとつの時代の終焉でもある。
 
文:豊福晋
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