敗退危機のクロアチアが正念場で見せた“勝者の顔”。35歳のモドリッチが神がかったプレーを… 【小宮良之の日本サッカー兵法書】

2021年06月28日 小宮良之

主力の一部は旬の時期を過ぎてしまった

(左から)ペリシッチとモドリッチのゴールなどでスコットランドとの大一番を制し、グループステージ突破を決めたクロアチア。(C)Getty Images

 EURO2020のクロアチアは、ベスト16へ勝ち進んでいる。

 グループリーグ、クロアチアは開幕戦でイングランドに敗れ、チェコに引き分けた。出足は鈍く、相手をなぎ倒すような力は湧き上がってこなかった。敗退の危機に追い込まれていた。

 クロアチアはロシア・ワールドカップで準優勝の栄誉を博したが、チームは世代交代の狭間に突入することになった。

 GKダニエル・スバシッチ、MFイバン・ラキティッチ、FWマリオ・マンジュキッチがワールドカップ後に代表を引退し、チーム力は目に見えて落ちた。センターバックのデヤン・ロブレン、ドマゴイ・ヴィーダ、右サイドバックのシメ・ヴルサリコも燃え尽き症候群になったか、あるいは年齢的衰えか、プレーレベルを低下させている。いわゆる旬の時期を過ぎてしまったのだ。

 しかし正念場のスコットランド戦、クロアチアは粘りを見せた。それはワールドカップ準優勝の実績がモノを言ったか。勝ち筋を知っているチームの顔だった。

 敵地で戦う格好になったが、クロアチアは序盤から主導権を握っている。ニコラ・ヴラシッチが先制に成功し、一度は同点に追いつかれたものの、そこから粘りを見せる。相手を引き回しながら足を使わせ、優位に立った。

 そして後半、エースのルカ・モドリッチがペナルティアークから右アウトサイドでゴール隅に突き刺した。まさに世界最高のサッカー選手の称号であるバロンドールの一撃だ。

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 モドリッチは35歳になるが、往年の輝きを失っていない。随所に神がかったプレーを見せている。前後左右、どのゾーンにいてもやるべきことを心得ていた。ボランチでも、サイドでも、トップ下でも、ベストプレーヤーというのは異能だろう。彼一人のボールキープやドリブルやラストパス、あるいはボール奪取が、チームそのものを旋回させる。プレーへの理解が深く、そのインテリジェンスにおいて、アンドレス・イニエスタと双璧を為す最高のフットボーラーだ。

「クロアチアを疑うな!モドリッチがいる!」

 スペイン大手スポーツ紙『マルカ』の見出しは端的だった。

 モドリッチだけではなく、チームとしても負けない強さが透けて見えた。スコットランドはタフな相手だが、EUROでも、ワールドカップでも、ファイナリストになったことはない。そこには見えない壁のようなものがあるのだろう。

 何度となくワールドカップ決勝やEUROの決勝に出てタイトルを取る"常勝国"は、躍進した後も満足せず、貪欲に戦えるだけの「体力」がある。土俵際の強さというのか。必ず主力をバックアップする選手がいるし、国としてのスタイルのようなものを持っていて、それに選手が適応することによって、効率的な新陳代謝が行われる。綿々と受け継がれる戦いが伝統と呼ばれるのだ。

 翻って日本は、ロシア・ワールドカップで大会3回目の決勝トーナメント進出を成し遂げているが、ベスト8進出の壁は越えられていない。決勝の舞台に立つには、世界標準のクラブで結果を残す選手(例えば欧州チャンピオンズ・リーグでベスト8の選手や欧州各国リーグで優勝、ベストイレブンなど)が、何人か束になって出てきたときだろうか。そして常勝国と呼ばれるには、その戦いを続ける必要があるのだ。

 その道のりは、まだまだ果てしない。

文●小宮良之

【著者プロフィール】
こみや・よしゆき/1972年、横浜市生まれ。大学在学中にスペインのサラマンカ大に留学。2001年にバルセロナへ渡りジャーナリストに。選手のみならず、サッカーに全てを注ぐ男の生き様を数多く描写する。『選ばれし者への挑戦状 誇り高きフットボール奇論』、『FUTBOL TEATRO ラ・リーガ劇場』(いずれも東邦出版)など多数の書籍を出版。2018年3月に『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューを果たし、2020年12月には新作『氷上のフェニックス』が上梓された。

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