【三浦泰年の情熱地泰】全米女子オープン優勝の19歳に感じたプロ意識の高さ。試合の価値を勝手に決めつけてはいけない

2021年06月15日 サッカーダイジェストWeb編集部

インタビュアーのオリンピックに関する質問をけん制した笹生選手

全米女子オープンで日本人選手3人目のメジャー制覇を果たした笹生優花。さらなる躍進が期待できる19歳だ。(C) Getty Images

 全米女子も日本人選手が優勝した。ゴルフ界にとってもビッグニュースだが、日本人にとっても誇りに思うゴルフ界の快挙でもある。

 松山英樹選手の優勝もこのコラムで取り上げさせてもらったが、余り日にちも経っていないなかでの笹生優花選手(19)の優勝。

 それも日本人同士のプレーオフ。もちろん優勝した笹生さんだけが騒がれるが、準優勝の畑岡奈紗選手(22)も同様に凄いことである。全米オープンという輝かしい舞台で、2人の日本人トップアスリートが最後まで闘ったことは、本当に嬉しいニュースだ。まずは「笹生優花選手おめでとう」。

 日本人のお父さんとフィリピン人のお母さんの笹生さんはお父さんの言う通り、練習に励み、素直に言う通りやっていたら19歳でこの位置に辿り着いたようなニュースが流れていたが、そんな簡単なことではないと思う。

 トレーニングを工夫して片足5キロ、両足で10キロの重りを足首につけて守備トレーニングやバットを降る姿が映像で流れていたのは印象的だった。

 厳しさに耐える誓約書をお父さんと交わして世界一を目指して、本当に世界一になった。

 そして優勝インタビューで涙を流しながら家族に感謝。試合後、ニュースの中でインタビュアーはオリンピックの話題に応える彼女を見た。彼女の答えにプロゴルファーとしての哲学に、僕は心打たれた。

 彼女は「オリンピックの前に、まだ試合(ツアー)がある!」と言った。「オリンピックの話はまだ早い」とでも言うように彼女は淡々と奢ることなく応えていた。

 オリンピックの話題を振ったインタビュアー。ここが日本人インタビュアーが、真のスポーツアスリートのメンタリティが分かっていないちょっとした部分なのだと思った。

 聞き手の気持ちは分かる。日本国籍とフィリピン国籍を持つ笹生さんがどちらの代表で出場するのか? 全米前の日本代表候補としての立ち位置と国民の期待。お母さんがフィリピン人ということによるフィリピンへのリスペクト。日本代表枠に対してのリスペクト……など、聞く方も発展させていきたいという欲があったと思う。

 僕は彼女をプレーヤーとして知らなかった。この全米女子に優勝したことで彼女を知ることになった。その僕は、彼女を応援する「大ファン」になった。

 彼女の言葉は、周りの人たちの期待と違う答えだったかもしれない。

「オリンピックを視野に入れて、オリンピックで金メダルを目指したい」
「日本代表に、フィリピン代表に、本音はなりたい……」
 こんな答えが聞きたい人が多いのかもしれない。

 しかしプロフェッショナルとは、そうした答えとは少し違うのだと思う。僕が言っていることは真面目過ぎて、つまらない意見なのかもしれないが……。
 
 しかしプロフェッショナルとは試合を選んではいけないのである。自分で試合に大小を付けず、どんな試合にも良い準備をして全力で戦う。

 自分のすべてを出す。しっかり努力することが大事なことなのである。

 もちろん大会には大きさがある。スポンサーの大小もあるし、注目の度合いは大会によって異なっている。世界大会と国内大会での大きさは違うし、TV放送の有無もある。

 だからといってプロ選手がそれによってその試合を勝手に下に位置づけるかどうかは、選手によって違う。

 不振にあえいでいる選手はコンディションを上げるため調整する。

 勝つことよりプレーイメージを持つために、何試合後かの勝利を狙うために、試合に望むことはあるかもしれない。しかし無駄な試合は1試合もないはずだ。
 

次ページ 試合を自分で選ばずにどんな人間の期待にも応え、何かが懸かった試合になればなる程、力を発揮できる選手が真のプロ

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