メモを見ながら11本のPK成功を許したGKデ・ヘアは、真面目過ぎるのか? 5年間、40本連続で止められず…【小宮良之の日本サッカー兵法書】

2021年06月04日 小宮良之

指揮官スールシャールは「GKを代えることも考えた」

EL決勝でPKを失敗し、チームメイトに慰められるデ・ヘア。(C)Getty Images

 ヨーロッパリーグ決勝、スペインの伏兵ビジャレアルはイングランドの強豪マンチェスター・ユナイテッドをPK戦の末に打ち破っている。それはクラブ規模を比較すれば、快挙と言えるだろう。クラブ史上初の欧州カップタイトルで、痛快なジャイアントキリングだ。

 しかし一方、敗れた強者は屈辱にまみれる。

 その最たる者が、PK戦で矢面に立ったゴールキーパーだったかもしれない。

 マンチェスターUのスペイン代表GKダビド・デ・ヘアは2012-13シーズンのプレミアリーグ制覇メンバーだが、過去3シーズンは低調なプレーに終始している。今シーズンは不安定なセービングで批判にさらされ、終盤戦はセカンドGKに甘んじるようになっていた。

 ヨーロッパリーグ決勝の舞台で、故郷スペインのチームを相手に自らの価値を示したいところだった。120分を戦って決着がつかずに突入したPK戦は、GKが主役となれる格好の機会だ。

 ただ、デ・ヘアはPKを思いのほか、苦手としている。2016年から一度もPKを止めていない。

「GKを代えることも考えた」

 マンチェスター・Uのオレ・グンナー・スールシャール監督がそう洩らすほどだった。

 実際、デ・ヘアはPKストップに失敗し続けた。11人全員に蹴り込まれ、自らが蹴ったキックを止められ、万事休す。英雄どころか、悪役になり果ててしまった。

 デ・ヘアは、何も準備なしに挑んだわけではない。ビジャレアルの全選手の特徴を紙に書き込み、それを自身のタオルに張り付け、カンニングペーパーのようにしていた。「アルビオル、右利き、GKの右」「パレホ、右利き、真ん中」「モレーノ、左利き、スローな助走からGKの左」……。何の目算もなく、跳んでいたわけではなかった。
 
 しかしあるいは、デ・ヘアは真面目過ぎたか。

【動画】なんと21人連続で成功!最後はGK対決で決着がついた壮絶なPK戦
 PK戦は感覚的なものと言われる。PKで主役になるGKは、多分に運を持っている。

 例えば、イタリアワールドカップのアルゼンチン代表GKセルヒオ・ゴイコチェアは正GKの負傷でポジションをつかむと、PK戦で神がかったストップを見せ、アルゼンチンを決勝に導く英雄になった。総合的ゴールキーピングは不安定も、度胸が満点で本能的読みに優れていたおかげで、世界的なPKストッパーになったのだ。

 PK戦は、博打うち的な側面があるかもしれない。それはGKの仕事の一つだが、優れたフィールドプレーヤーがしばしばPK戦でキックを外すように、特別な瞬間と言える。技術以上のものが作用するというのか。ただ、それもサッカーの一部である。

 デ・ヘアはPKを一本も止められなかった。彼はその不名誉を背負わざるを得ない。トータル40本連続でPKを蹴り込まれているのだ。

 しかし愚直にゴールマウスを守ることで、デ・ヘアが見つけられる境地は必ずある。幼いころからGKとして、彼はそうやって戦いに向き合い、乗り越えてきた。次のPKストップが、選手人生の流れを大きく変えるかもしれない。

文●小宮良之

【著者プロフィール】
こみや・よしゆき/1972年、横浜市生まれ。大学在学中にスペインのサラマンカ大に留学。2001年にバルセロナへ渡りジャーナリストに。選手のみならず、サッカーに全てを注ぐ男の生き様を数多く描写する。『選ばれし者への挑戦状 誇り高きフットボール奇論』、『FUTBOL TEATRO ラ・リーガ劇場』(いずれも東邦出版)など多数の書籍を出版。2018年3月に『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューを果たし、2020年12月には新作『氷上のフェニックス』が上梓された。
 

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