【提言コラム】若き有望株「久保建英」がバルサから東京へ――未来の「宝」をどう見守るべきか

2015年05月15日 サッカーダイジェスト編集部

ピッチ外でのプロテクトは日本の育成の最重要課題。

「世界最高峰」と言われるバルセロナの下部組織で才能に磨きをかけた久保。日本の育成は、彼をしっかりプロテクトすべきだと小澤氏は語る。(C) Getty Images

 バルセロナの下部組織で着実な成長を遂げていた久保建英は、日本サッカー界における紛れもない「宝」だろう。しかし、バルセロナの未成年選手の移籍に関する規則違反によって、久保は18歳になるまでバルセロナでの公式戦出場の道を閉ざされてしまった。
 
 難しい選択を迫られた13歳は、やむなく日本への帰国を決断。そしてこのほど、FC東京の育成組織であるFC東京U-15むさしへの加入が発表された。
 
 この才能溢れる若者を"潰さない"ために、日本の育成組織がピッチ内外で果たすべき役割は様々にあるはずだ。未来の「宝」をどう見守るべきか――。育成年代をつぶさに取材してきたふたりの識者が提言する。
(『サッカーダイジェスト』2015年5月14日号より転載)
 
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 3月末、バルセロナ寄りのスポーツ紙が大々的に久保建英のバルセロナ退団を報じた。現地の報道などから推測すると、スポーツ仲裁裁判所(TAS)がバルセロナの訴えを棄却する前のクリスマス休暇から、バルセロナ残留をファーストオプションとしながらも、水面下で日本への復帰に向けた準備を進めてきたようだ。
 
 帰国の一報を受けて日本ではスポーツ紙を中心に、関東のJ1クラブのアカデミー入りやそれに伴う熾烈な獲得競争が報じられてきた。本稿では、3年半に渡り「世界最高の育成機関」と呼ばれるバルセロナの"ラ・マシア"(下部組織)で、その才能に磨きをかけてきた久保をどのように育成していくべきなのかを考えてみたい。
 
 久保は、バルセロナという世界最高峰の育成機関を持つ欧州クラブで、きめ細かい指導を受けてきた。そのような若者を預かるJクラブや日本の育成現場が考えるべきは、彼の才能を「どう伸ばすか」ではなく「どう潰さないか」だろう。
 
 Jクラブは定期的にチームや指導者を欧州に派遣し、最先端の指導法や普遍的な育成の仕組みを学び進歩している。しかしピッチにおいて、バルセロナの育成システムやメソッドとJクラブのそれを比較した際に、大きな開きがあるのも事実だ。
 
 例えば、13、14年の夏に開催されたU-12ジュニアサッカーワールドチャレンジでバルセロナを連覇に導いたマルセロ・サンス監督と日本の指導者とのコーチングの質には、埋めがたい差があった。13年の第1回大会で、久保は左ウイングをぶっつけ本番で経験したのだが、サンス監督から細かなポジショニングや守り方のレクチャーを受けると、彼は即座にバルセロナの左ウイングがやるべきプレーを吸収していった。
 
 ピッチ外においても、バルセロナはクラブとして徹底的に育成年代の選手をプロテクトし、学業面のサポートもきっちり行なうなど、管理が行き届いている。特にピッチ外でのプロテクトは、現時点で日本の育成の最重要課題だろう。
 
 筆者は久保が加入直後のバルセロナを取材したことがあるが、別件の取材にもかかわらず下部組織コーディネーターから「クボという日本人選手はバルサにいないものとして考えてください」と念を押された。インドネシア遠征を行なうU-15日本代表に久保が招集され、出国する空港に久保目当てで出向いたマスメディアの数や報道の仕方を見る限り、JFAだけでなく受け入れるクラブも、徹底的に彼を守る必要がある。
 
 久保が持つ才能のみならず、彼がこの3年半歩んできた育成プロセスも過去の日本にはない「規格外」なもの。だからこそ、預かることになるクラブやJFAに責任や対応を丸投げするのではなく、日本の育成全体で大事に育てていくために必要不可欠な「静かに見守る」姿勢を持とうではないか。
 
文:小澤一郎(サッカージャーナリスト)

次ページ必要以上の報道を避け「大人の自制心」を望む。

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