【5.15コラム】29年目を迎えたJリーグに夢はあるか? 欧州のハイテンポな進化を追走するには…

2021年05月15日 加部 究

確固たるビッグクラブが生まれない反面着実に底上げが進む。しかし95年の判決を境に…

今季のJ1リーグも川崎が独走態勢を築きつつあるが、モチベーション次第では下位にも苦戦を強いられる。大局的に見れば、団子状態で着実な底上げも見られている。(C) SOCCER DIGEST

 5月15日は「Jリーグの日」。1993年のJリーグ開幕から丸28年が経過し、29年目を迎えた。まもなく30歳になろうとする日本のプロリーグの現状と課題とは――。
文●加部 究(スポーツライター)

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 5月12日のナイトマッチで、J1を無敗で独走する川崎が、ホームの等々力陸上競技場で19位の仙台と引き分けた。川崎の鬼木達監督は「自分たちのサッカーとはほど遠くミスが多過ぎた」と語り、前節から8人のメンバーを入れ替えた仙台の手倉森誠監督も「これで川崎がなめてくれた」とジョークを飛ばしたが、こうして突出した王者でもコンディションやモチベーション次第では底辺で低迷するチームに苦戦を強いられる。一方今年は22チームで争われているJ2に目を転じても、かつてはJ1の常連で天皇杯では2度もベスト4に進出した大宮が最下位に沈んでいる。29年目を迎えたJリーグは、団子レースが続き、なかなか確固たるビッグクラブが生まれない反面、着実に底上げが進んでいる。下剋上の激しさは、むしろ名声や実績だけでは何も保証されない競争の質を伴った裾野の広がりを証明している。
 
 1993年にジーコ、ガリー・リネカー、ピエール・リトバルスキーら世界でも有数のビッグネームを加えて船出をしたJリーグは、やがてドラガン・ストイコビッチ、レオナルド、セサール・サンパイオなど現役バリバリの代表選手らを加え、一時は待遇面も含め急ピッチで欧州市場を追いかけた。だが前世紀末にボスマン判決が下りEU内の外国人枠が実質撤廃されたことで、瞬く間に彼我の格差は広がった。改めて日本は輸出国として世界に伍して行くしかないことを思い知らされるのだ。

 Jリーグを単体で見れば、すくすくと育った健康優良児だ。多少耳障りな罵声が多い例外はあっても、基本的に全てのスタジアムで安全が担保され、コロナ前までは文字通り老若男女が心置きなく観戦と応援を満喫していた。ピッチ上に目を向けても、特に最近は技術水準が目に見えて高まり、どの選手も全力で真摯に戦い駆け巡っている。

 しかしサッカーの中心地が欧州から動くことはなく、そこには世界中から質の高い選手が結集し、日々効率的なトレーニングを研究しながら、しのぎを削っている。当然ながら欧州のハイテンポな進化を追走するには、育成の改善が重要なカギになり、そのバックボーンとして普及活動がある。
 

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