【川崎】復帰戦で決めた見事なゴール。小林悠がチームメイトに示す頼もしき背中

2021年05月13日 本田健介(サッカーダイジェスト)

家族の支えをパワーに

仙台戦で開始3分にゴールを奪った小林(写真中央)。ゲームは2-2のドローとなったが、復帰戦での得点をチームメイトから祝福された。(C)SOCCER DIGEST

[J1第20節]川崎2-2仙台/5月12日/等々力

 頼もしい男が帰ってきた。

 後半アディショナルタイムの失点で2-2に追い付かれた仙台戦、昨季からの無敗をリーグタイ記録の「21試合」にまで伸ばした川崎だが、選手たちの表情は浮かない。ゲーム内容や締め方に課題を残しただけに、一様に悔しさを感じたのだろう。

 もっとも開幕から無敗を貫いているだけに、悲観するような結果ではない。客観的に見れば、ドローにも悔しさを募らせ、さらなる高みを目指す姿には王者の風格のようなものが漂っているように映る。大事なのは中3日で迎えるホームの札幌戦。ここで勝点を得れば、リーグ新記録の22戦無敗を達成する重要なゲームになる。

 そして仙台戦ではポジティブな要素もあった。それが負傷離脱していた小林悠の復帰である。今季、起用されることの多くなった3トップの右ウイングで先発したストライカーは、開始3分にいきなり結果を残してみせる。

 左サイドからの盟友・登里享平のクロスに対し、相手SBとの駆け引きで、巧みなステップワークを踏みながら背後を取った小林は「試合前にノボリに得点シーンのようなボールを出してくれと話していた」という狙い通りのヘッドでゴールネットを揺らした。"仙台キラー"とも呼ばれる、数々のゴールを奪ってきた相手から得た電光石火の1点だった。
 
 仙台戦での川崎の3トップは右から小林、知念慶、三笘薫の並び。今季で最も多い組み合わせは、右から家長昭博、レアンドロ・ダミアン、三笘薫のセットだが、鬼木達監督は、CFにL・ダミアンや知念、右ウイングに小林悠など、ふたりのストライカーを共存させる組み合わせも採用している。

 当の小林は10節の広島戦で負傷して3試合を欠場したが、開幕からコンディションは良く、4月に話を訊いた際には「膝の状態が今は良いので、シュートも良い感じで振り切れているんです」と良好ぶりを語っていた。

 点取り屋の小林にとって最も力を発揮できるのは、センターのポジションだろう。調子は良かっただけに、そこで勝負したい気持ちもあったのではないか。

 それでもチームのために走れる男は、「ハードワークを全員でやれているという実感はあります。だからサイドで出た時は、自分のサイドからやられたくないという想いもあります。相手のクロスの時は必ず戻って、しっかり守るなど、当たり前のことですが、そういうところはサボらずにやっていきたいです」と献身的に走り回り、ボールの回収を目指す。その姿は多くの人の心を打つものである。

 昨季限りで中村憲剛が現役を引退。小林は昨季、キャプテンマークを後輩の谷口彰悟に託したが、チームを牽引する働きはこれまでと変わらない。

「若い選手も増えてきて、練習中、少し緩いと感じた時は、厳しい声をかける意識はしていますし、厳しい声だけでなく、良いプレーは称賛して、鼓舞して、試合ではセットプレーなど少し緩くなりそうなところで声をかけています。年長者じゃないですが、そういうところは今年はちょっと意識しているかなとは思いますね」

 チームのために必死に戦い、自らのピッチに立つ証明となるゴールを決める――。そんな男の背中を見て後輩たちが奮い立たないわけがない。

 現に今季から副キャプテンを務める脇坂泰斗は「僕はケンゴさんなり、悠さんの背中を見て、この3年間(今季がプロ4年目)、プロとしてプレーしてきましたし、ピッチ外の取り組みもすごく影響を受けて、人間的にも成長できたのでそういう人間になっていきたいと思います。ピッチ内だけではなく、ピッチ外で背中を見せられる存在になっていきたいです」との熱い思いを口にしている。

 ちなみに、小林はレギュラーを争うL・ダミアンは「人間的に尊敬できる大好きな選手」と称し、自身のエネルギーの源は家族だと話す。

「最近、上の子たちがサッカーを頑張り出していて、それが正直、力になっているというか。子どもが頑張っているのに、自分がやんないでどうするんだと思いますし、子どもたちのサッカーを見に行くことが今、一番、幸せなんです。パワー、活力をもらっているなと感じますね」

 家族の話になると表情は一気に綻ぶ。復帰戦となった仙台戦の試合前にも家で「子どもにハグしてパワーをもらった」という。家族の後押しがあるからこそゴールを奪うことができ、ピッチで戦い続けられるのだろう。

 頼もしきストライカーは、今後もチームのキーマンになるはずだ。開幕から無敗を貫く川崎をさらに高みに引き上げてくれるのだろう。

取材・文●本田健介(サッカーダイジェスト編集部)
 
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