連載|熊崎敬【蹴球日本を考える】「また怒ってる」闘莉王は、なにを理解してほしかったのか

2015年05月10日 熊崎敬

まるで歌舞伎役者のような身振りでチームメイトを鼓舞。

ミックスゾーンでは、やるせない表情を浮かべていた闘莉王だが、誰よりも懸命に戦い、見せ場の少ないゲームを盛り上げていたのは間違いない。(C)J.LEAGUE PHOTOS

 16日間で5試合という過密日程を、名古屋は2勝3敗と負け越した。5連戦最後の川崎との一戦は、ホームで0-1の完封負け。決定機はわずか一度と、良いところがなかった。

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 試合後、記者たちが待つミックスゾーンに出てきた闘莉王は、やるせない表情を浮かべてこう語った。
 
「連戦を乗り切るには気持ちが大きいのに、チームは熱くなり切れなかった。もっと熱くならなきゃいけない。スタジアムを熱くできなかったのが悔しいんですよ。(そういう部分をチームメイトは)まだ理解できていないのかと。最近の日本の悪い傾向じゃないですか」
 
 唯一の失点となった大久保のゴールは、最後尾から持ち上がった闘莉王の前線へのパスをカットされたのがきっかけだった。
 
 とはいえ、私は闘莉王を責めようとは思わない。
 
 果敢に冒険したパスであり、カットされたのは敵陣深いところだった。またこれは川崎の鋭い攻めを褒めるべきで、特にレナトの仕掛けは見事だった。そしてなにより、闘莉王は誰よりも必死に戦い、見せ場の少ないゲームを盛り上げていたからだ。
 
 立ち上がりから、彼は歌舞伎役者のように大きな身振りでチームメイトを鼓舞し、大声で指示を出した。
 
 淡泊な攻撃に終始した名古屋だったが、それでも攻守の切り替えから闘莉王が思い切って中盤、さらに前線に飛び出すと、わずかとはいえゴールの予感が漂った。
 
 報われることはなかったが、彼はタイムアップの笛が鳴るまで冷めたゲームに熱を吹き込み続けたのだ。
 
 前半の10分頃だっただろうか、大声でまくしたてる闘莉王を見て、私の近くにいたファンが笑っていた。
 
「あいつ、また怒ってるよ」
 
 その声を聞いて、少し悲しくなった。
 
 日本では、ゲームに全身全霊を傾けている人間が変人に見えるのだ。それはJリーガーのほとんどが淡々とプレーしていることを意味する。そして、そのことがもはやお客さんにとって当たり前の光景になっているということも――。
 
 ちなみにそのお客さんは試合中、テレビ番組のことを友人と話していて、私は少し気が散った。だが、文句を言う気にはならなかった。これは無駄口を叩くお客さんではなく、無駄口を叩かせてしまうようなゲームしか提供できない選手たちが悪いのだ。
 
 退屈な授業を聞いて、生徒たちが集中力を失うのと同じことだ。

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