サッカー史上最大の分裂を招いた「欧州スーパーリーグ」は、強欲な醜い時代の“映し鏡”だ【現地発】

2021年04月24日 サッカーダイジェストWeb編集部

少数の特権的な人間が支配する貴族制と同じ構造

ESL構想を主導してきたマドリーのペレス会長(右)とユベントスのアニェッリ会長。 (C) Getty Images

 レアル・マドリー、バルセロナ、アトレティコ・マドリーをはじめ12のクラブが創設メンバーとして名を連ねた欧州スーパーリーグ(ESL)は、サッカー界の仕組みを根本から覆すものだ。サッカーは19世紀に誕生して以来、広く門戸を開き、連帯的な性格を帯びてきた。しかしこの構想が実現すれば、まったく逆の縦型構造に生まれ変わる。少数の特権的な人間が支配する貴族制と同じ構造だ。

 サッカーにとってはこの転換は不幸なことであるが、世界がパンデミックにさらされる現状を考えれば避けられないことでもあった。人間はこの種の状況に直面すると、潜在意識に潜む野蛮な心が顔を出し、独善的で強欲になる。しかも、権力を振りかざすのはごく一部の人間だけだ。周囲の人間は臣民のように跪くことを強要され、果てはその厳しい現実にさえ感謝を示すことを余儀なくされる。

 マドリーのフロレンティーノ・ペレス会長の主導でデザインされたESL構想は、いうなれば、銀行家、ヘケ(首長)、資産家の道楽である。その多くは、サッカーが文化として根付いていない国の出身の成り上がり者だ。近年の急激なテクノロジーの進化を背景に投資対象としてサッカーを選択した輩に過ぎない。

【PHOTO】現地番記者が選ぶ「過去20年のR・マドリー・レジェンドTOP10」を厳選ショットで振り返り!
 サッカーはピッチで勝ち取った功績を唯一の基準にして成り立ってきた。それがそのままダイレクトに順位表に反映され、負けが込めばカテゴリーさえも失う。多様性はその競争原理の賜物だ。しかしESL構想は、そうしたサッカーが持つ本質を破壊する。その影響は、国内リーグや若手の育成など様々な面に波及するだろう。

 エリート特有の傾向でもあるが、創設メンバーは自分たちがサッカーの価値を永遠に体現するロールモデルであると言い放つ。しかし、移籍金のインフレを招いたのも、代理人業を一大産業にしたのも彼らに他ならない。クラブを負債まみれにしたのも彼らだ。しかしそんなことをおくびにも出さずに、経営の"魔術師"であるがごとく振る舞い続けている。

 その際に好敵手として切磋琢磨してきた仲間を置いてきぼりにしても気にも留めない。今ある名声は彼らとともに形成されてきたにもかかわらず、である。アヤックス、ポルト、ベンフィカといったクラブは、国内リーグの規模の小ささがネックとなって、招待者としてしか参加を許されない。その一方で、前身のチャンピオンズ・カップ時代も含めてチャンピオンズ・リーグの優勝経験がなく、1960-61シーズンを最後に国内リーグのタイトルからも遠ざかっているトッテナムのようなクラブがメンバーに名を連ねた。
 

次ページ

みんなにシェアする
Twitterで更新情報配信中

関連記事