連載|熊崎敬【蹴球日本を考える】ゴールデンウィーク初戦の嘘みたいな試合。諦めない山形と、変われない清水

2015年04月30日 熊崎敬

“日本平の奇跡”は、厳しい戦いが続く山形にとって心の拠りどころになる。

今季7試合で2得点の山形が、ラスト12分間で3得点を奪う。これからも厳しい戦いが続くと予想されるなか、心の拠りどころとなるはずだ。(C) J.LEAGUE PHOTOS

 12日間で6試合。ゴールデンウィークは全国を駆け巡り、Jリーグを満喫することにした私は、初戦から嘘みたいなゲームに遭遇した。前半に清水が3点を先取した山形との残留争い直接対決は、残り10分から3-3になったのだ。
 
 今季7試合・2得点の山形にとって、前半の3失点はあまりにも重い。だがハーフタイムに石﨑監督は、東京Vが岐阜を0-3から最後の12分間で4ゴールを奪って逆転した試合を引き合いに出し、諭すように訴えた。
 
「試合はまだ終わったわけじゃないんだ」
 
 彼らは勝負を捨てず、後半やるべきことをすべてやった。
 
 林、中島、萬代と攻撃のタレントを次々に投入し、段階を踏んで超攻撃的な布陣にシフトする。中盤に下がったディエゴ、R・フランクもひたむきに走り続け、清水守備陣に圧力をかけた。そして左サイドの高木利のフィニッシュ、クロスが冴えわたる。理にかなった采配と粘りの姿勢によって、清水を押し潰した。
 
 試合後、ディエゴを直撃すると力強い言葉が返ってきた。
 
「サッカーは諦めちゃいけない。ネバーギブアップ、強い心を持ち続けることが大事なんだ。だって、こういう試合は決して珍しくないんだから」
 
 そう、考えてみれば、彼らは昨年も昇格プレーオフで奇跡を起こしている。この時の立役者であるGK山岸は、「守りに隙があって、安い失点を重ねてしまった」と反省しながら、こう語った。
 
「ウチにはスーパーな選手がいるわけじゃないから、今日のように泥臭く、粘り強く戦うしかないんです」
 
 山岸が言うように、このドローによって山形はあらためて自分たちの進む道を認識したはずだ。
 
 苦しくても、泥臭く粘り強く戦えば、なにかが起きる――。
 
日本平の奇跡。それは厳しい戦いが続く山形にとって、心の拠りどころになるのではないだろうか。

次ページ過去の名声によって現場のトップに立つ人物が、ピッチに立つ選手を決めるのはおかしい。

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