連載|熊崎敬【蹴球日本を考える】ふたりのブラジル人監督が示唆したサッカーの真理

2015年04月26日 熊崎敬

7戦無敗の神戸に浸透し始めた"ネルシーニョ哲学"。

着実にチーム力を高めている神戸。ネルシーニョ監督は柏時代と同じ手法でベースを築いている。 写真:徳原隆元

 上位、中位、下位の差が徐々に広がってきたJ1で密かに、しかし確実に力を蓄えているチームがある。ヴィッセル神戸だ。今節は敵地で鹿島アントラーズを退け、4勝3分と公式戦の連続無敗を7試合に伸ばした。

【J1採点&寸評】1stステージ・7節|全9試合の評価をチェック!

【J1 PHOTOハイライト】1stステージ・7節
 
 好調の要因はふたつある。
 
 ひとつは球際の強さ、もうひとつは変幻自在の3バックシステムだ。どちらも今季就任した優勝請負人、ネルシーニョ監督がもたらしたものである。
 
 新監督は柏レイソル時代もそうだったように、球際での厳しさを重視する。これがなければサッカーにならないからだ。対戦相手の鹿島も球際に強いチームだが、この日は神戸が圧倒した。
 
 敵を迎え撃つ時、神戸は5-4-1システムを敷くが、最終ラインの5人、中盤の4人は一人ひとりが縦のコースを切りながら、執拗に敵に絡みついた。縦への突破は鹿島の十八番だが、神戸の激しく巧妙な守りに根負けし、パスは横へ、横へと回ることになった。
 
 屈強で戦術眼にも長けた選手たちが、強靭な組織を編む。それがネルシーニョの神戸だ。
 
 強靭なだけではない。敵がボールを持った時は5-4-1でスペースを消し、中盤での攻防になると3-4-3に、攻めにかかると3-2-5とシステムは自在に変化する。サイドで数的優位を作り、安定してボールを支配した。
 
「守備は良い形になってきたが、攻撃の生産性をもっと上げなければいけない」
 
 ネルシーニョ監督は慎重な姿勢を崩さないが、それでも今の神戸は11人が伸縮自在の生き物のように一体となった試合運びを見せている。なぜ、そうしたことが可能なのか。
 
 記者会見で尋ねると、ネルシーニョはいつものように端的で分かりやすく説明してくれた。
 
「私は規律、組織、ゲームプランを最重要課題として選手たちに実行するよう求めている。選手たちは自分の役割を理解してプレーするようになり、次に前後左右の味方の役割を理解して動くようになる」
 
 つまり、こういうことだ。
 
 選手個々が自分のやるべきことをやり、次に周りの役割を理解することで、互いが互いを支えながらグループとして機能するようになる――。非常に分かりやすい組織論だ。
 
 私は、この哲学を柏時代にも聞いたことがある。
 
「サッカーはチームプレーである以上、コンパクトに戦わなければならない。コンパクトな組織で戦うことで、プレーの連続性が上がり、ミスした時も味方がカバーすることができる」
 
 言っていることは、この日の記者会見の言葉とほぼ同じだ。
 
 このネルシーニョ流組織論は、近所付き合いにも似ている。隣同士が仲良くなれば、その絆が広がって街中がまとまる。彼は、そういうチームを築こうとしているのだ。
 
 会見の最後に、ネルシーニョは次のように語った。
 
「攻守両面がさらに高いレベルに達したら、もっと素晴らしいチームになりますよ」
 
 今にして思えば、かなりの自信に満ちた言葉。監督経験30年の名将は、それだけ今の神戸に手応えを感じているのだろう。

次ページもっと情熱的に生きなければ、微妙な判定は見逃される。

みんなにシェアする
Twitterで更新情報配信中

関連記事