「団結を崩すな」智将サンパオリの下で再出発した“反逆”のマルセイユ。長友佑都、酒井宏樹の起用法に変化も?【現地発】

2021年03月12日 結城麻里

アルゼンチン指揮官は使命を胸に乗り込んできた

指揮官の初陣で先発に抜擢された長友。酒井はベンチスタートとなった。(C)Getty Images

「"反逆"の概念を、現状から脱するために使う」

 マルセイユで初の記者会見をしたホルヘ・サンパオリは、こんな言葉を発した。

「私は変革したいという真摯な気持ちを見せるつもりだ。私は、サポーターたちがこのユニホームに感じているものを、選手たちにも知覚してほしい。クライシスは(過去と)断絶する場も与えてくれる。よくないものは直すべき。そして団結を崩すな」

 チェ・ゲバラの登場か!?と思わせる発言だった。まさに革命家の表現で、これが本当ならマルセイユにはぴったりの人物となる。いずれにせよサンパオリは、マルセイユについての知識をもち(または仕入れ)、自分の使命を心得て乗り込んだと言えそうだ。

 なにしろ怒れるサポーターのラ・コマンドリー(本部兼練習場)乱入(1月30日)は、1789年のバスティーユ奪取にちなんで「ラ・コマンドリー奪取」とさえ呼ばれるようになり、事態を理解できずにサポーターと全面対決に出たジャック=アンリ・エロー会長の首も、あっけなく飛んでしまった。フランス・メディアはこれを「革命」または「宮廷内革命」と呼んだ。

 オーナーのアメリカ人富豪フランク・マッコートは慌ててプライベートジェットに飛び乗り、マルセイユ入りするや否や、サポーター集団、地元紙『ラ・プロバンス』のジャーナリストたち、市長(社会党)らとくまなく対談した。
 
 サポーターの乱入をドナルド・トランプ前米大統領支持派による米議会乱入事件に例えたことを謝罪し、「クラブ売却など、現在はもとより、過去にも未来にも考えたことがない」「このクラブは孫子の代まで引き継ぎたい」「ビジネスではなくフットボールのためにここにいる」と強調した。

 しかも、特別な個人的思いがあることまで匂わせた。祖父が第二次世界大戦時に、フランスをナチスから解放すべくマルセイユに上陸したのだという。雇っている宣伝広告会社の"仕事ぶり"が匂ってくる気もするが、フランス人の心の琴線に触れるエピソードだったのも確かだ。

 そしてホルヘ・サンパオリの招聘だった。マルセイユ民衆の尊敬を勝ち取ったマルセロ・ビエルサの愛弟子。アルゼンチン出身で、チリ代表監督も務めた、チェ・ゲバラの国の「エル・ロコ(ザ・クレイジーマン)第2弾」――。マルセイユ民衆が無視できるはずはない、と踏んだ人選だった。

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