三浦知良の美学――信頼と緻密な計算が生み出す“カズゴール”

2015年04月19日 広島由寛(サッカーダイジェストWeb編集部)

「5メートルぐらいの範囲」でいかに相手の先手を取るか。

ゴールを決めた後、“相棒”の大久保と固く抱き合う。信頼できるパートナーとともに、横浜FCの攻撃を牽引する。写真:小倉直樹(サッカーダイジェスト写真部)

 中盤でボールを収めると、前線やサイドに展開する。しかしその後、特に後半は思うようにスピードアップできない。ゴール前に向かうが、全速力ではない。高い位置からのディフェンスは精力的にこなすが、ドリブルで持ち上がる相手の進路を防ぐ、あるいはパスコースを切る動きを見せても、プレスに迫力があるとは言えない。

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 運動量は決して多くない。本人もそれで勝負しようとは思っていないだろう。「年齢のことだったり、肉体の衰えはあまり自分から言うべきことではありませんが」と語りつつ、20代の選手と比べれば、「スピードの面では勝てない」と本人も認めている。
 
 だからこそ、「考えるスピードやポジショニング、ペナルティエリアの中での駆け引き、そういうところで勝負しなければならない」と言葉に力を込める。
 
 自陣の深い位置で味方がマイボールにすれば、ほんの少しだけサイドに開いて、パスを受ける準備をする。チームが攻撃態勢に入れば、最前線で素早く半身になって斜めに走り出し、スルーパスの道筋をつける。
 
 そうしたオフ・ザ・ボールでの勝負は、ほんの一瞬の出来事だ。「5メートルぐらいの範囲」でいかに相手の先手を取るか。それをカズは何度も繰り返して、虎視眈々とゴールを狙っている。
 
 2013シーズン以来となるシーズン2得点目も、カズが重視するそうした要素が凝縮されていた。
 
 12分、佐藤謙介のFKからゴール前にボールが供給される。これを大久保哲哉が長身を活かして頭で折り返したところを、「上手く相手のGKの逆を突くことができた。コースも一番良いところに飛んでいった」という狙いすましたヘディングシュートでネットを揺らす。
 
 大久保がヘッドするより前に、カズはすでに動き出していた。「DFはどうしてもボールを追ってしまうところがある」という観察眼が光る。まさしく、ほんの数メートルの駆け引きで巧みに相手の背後を取り、「上手く裏に走り込めた」というポジショニングはパーフェクトだった。
 
 大久保とのコンビネーションも、本人も以前から手応えを感じている部分だ。
 
「後ろからでも、横からでも、ジャンボ(大久保)に上がった時は、相手の裏を取るとか、こぼれ球を狙おうとか、それは常に意識しているし、練習でもそういうコンビネーションはやっている」
 
 大久保が常に相手に競り勝てるわけではない。それでも、カズは狙っている。"相棒"を信じている。
 
「(大久保が)100パーセント、勝てるわけではない。でも、僕はジャンボを100パーセント、信頼しているので」

次ページカズは常にギリギリのところで勝負している。

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