ヴィラス・ボアス監督の電撃解任、サポーターの暴徒化――仏の名門マルセイユでいったい何が起きているのか? 【現地発】

2021年02月04日 結城麻里

クラブハウスがファンに“襲撃”された3日後に辞任表明した監督が解任

ヴィアス・ボアス監督は辞任を申し出たことを記者会見で明かし、その日のうちに解任された。(C)Getty Images

 サポーターの蜂起に続いて、辞任表明したアンドレ・ヴィラス・ボアス監督を電撃解任したオランピック・ド・マルセイユ。ジャック=アンリ・エロー会長の孤立がますます深まり、フランス中の視線はその去就に注がれている。

 エロー会長はもともとキレのいい実業家で、マルセイユを買収したアメリカ人オーナー、フランク・マッコートに見初められた。オーナーはアメリカに居て、フランスにもフットボールにも疎く、会長をほぼ盲目的に信用し、運営を任せている状態だ。

 問題は、彼らがマルセイユとフットボールを"知らない"点だ。いや、知らないだけならまだいい。知らないがゆえに、謙虚にクラブを運営する会長もいるだろう。

 ところが、エロー会長は相当な自信家だ。マルセイユと、それを築いてきたマルセイユ民衆の歴史を馬鹿にし、クラブをビジネスという視点だけで判断する、「モダン企業」論ばかりを展開するテクノクラート。この姿勢はこれまで、マルセイユばかりか、フランス中から反感をたびたび買ってきた。

 しかも、本人はそれがなぜなのか、全く理解できていない様子だ。

 とくに最近の発言は、耳を疑うものだった。クラブ職員や協力者のほとんどがマルセイユ出身であることを非難し、クラブ史について「闇社会のマルセイユ」と言い放った。このため、現地紙『L’EQUIPE』も「パリジャンの花押」をかざし、「ビジネススクール・オブ・ハーバード」をあまりにも強調している、と強烈に皮肉った。
 
 サポーターとの絆も、ぼろぼろだ。サポーター集団「ウィナーズ」のトップは、3年来エロー会長に近しい存在で、これまで選手をこき下ろす立場だった。だが、今回の蜂起では、とうとう会長に反旗を翻している。その結果、他の集団「ヤンキーズ」、「ファナティック」、「コマンドー・ウルトラ」、「ヴィエイユ・ガルド」とともに、「エロー出て行け」の大合唱が起こった。

 政治家も、会長から離れ始めているようだ。これまで保守派だった元マルセイユ市長で元政府閣僚のジャン=クロード・ゴダンもそのひとりで、不愉快な言葉を受けて気分を害したという。

 クラブOBからも厳しい声が上がっている。バロンドール受賞者のジャン=ピエール・パパンは「彼らは(私を)プロジェクトに入れるという約束を一度も守らなかった」と批判しているらしい。最近クラブから解雇されたアディル・ラミは、現在も労働裁判所を舞台に係争中であり、ソーシャルネット上で厳しくエロー会長をこき下ろしている。
 

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