ジーコが熱望した鹿島加入のMFディエゴ・ピトゥカとは何者か? 一度は破談した移籍交渉がなぜ成立したのか――【現地発】

2021年01月22日 リカルド・セティオン

リベルタドーレス杯の決勝進出に貢献

ブラジルの名門サントスで主力を担っていたピトゥカ。(C)Getty Images

 昨年の8月、ブラジル全国リーグが始まったばかりの頃、サントスはボタフォゴ、コリチーバと共に最も弱いチームの一つと思われていた。財政的に困窮していて、選手の給料も滞りがち、若手中心でスター選手は皆無だったからだ。

 下手すればB(2部)落ちの可能性もあると指摘されていたほどだ。だが、安定したプレーで徐々に順位を上げていき、リーグでは7、8位をキープ。それ以上に驚きだったのが、リベルタドーレス杯だ。圧倒的な戦績でグループリーグを首位通過すると、決勝トーナメントでも勝ち上がり、ついに決勝にまでたどり着いた。

 DFルーカス・ヴェリッシモ、158センチのベネズエラ人MFジェファルソン・ソテルドとともにその立役者となったのがMFディエゴ・ピトゥカだ。

 1月21日、このピトゥカの鹿島アントラーズ移籍が発表された。テクニカル・ディレクターを務めるジーコが獲得を熱望したのである。

 昨年の10月あたりからジーコは、ブラジルの選手を日本に一人連れて行こうと考えていた。探していたのは、いろいろなポジションでプレーできる、ユーティリティ性の高い選手だ。ピトゥカにはかなり早い段階から目をつけていた。

 左利きで鹿島に不足がちなエネルギッシュさがあり、なによりどのポジションでもプレーできるという点で理想的だった。これまでにSB、CB、ボランチ、攻撃的MFでプレーした経験を持ち、トップで出場したこともある。

 ジーコは賢明だ。彼が望んだのはスター選手でも、高額な選手でもない。経験豊富で、確かなプレービジョンを持ち、リーダーにもなれる職人肌の選手。28歳で、最も脂の乗っているプレーヤーだ。

 こうして鹿島はまず11月に、サントスに最初のオファーをした。金額は120万ドル(約1億2000万円)。しかし、この値段はあまりにも低すぎると交渉にまでは発展しなかった。

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 12月19日、鹿島は再び公式のオファーを出す。今度は50%の保有権に150万ドル(約1億5000万円)という内容だった。

 この申し出はサントスの興味を引いた。ただこの数日前に、リベルタドーレス杯でグレミオを破り、準決勝に駒を進めていた。すぐにピトゥカを手放すわけにはいかない。そこで、こんな条件を出した。

・ピトゥカの移籍はリベルタドーレス杯が終了した後とする。
・ピトゥカの40%の保有権を持っている(以前彼が所属していた)ボタフォゴに100万ドル(約1000万円)を支払う(残り10%は選手自身が持っている)。
・サントスへの金額は150万ドルではなく160万ドル(約1億6000万円)、支払いは一括払いとする。

鹿島はその条件をすべて飲んだ。しかしその直後に、サントスがオファーを断って来た。リベルタドーレスの準決勝に勝ち進んだことで、南米サッカー連盟から少なくとも200万ドル(約2億円)の報奨金が受け取れること、ヴェリッシモが650万(6億5000万円)でベンフィカに売れたことで財政的に余裕ができ、ピトゥカをすぐに売る必要がなくなったからだ。

 今後活躍すれば、もっと高値を付けられる可能性もあるという思惑もあった。おまけに当時の会長(任期は12月31日までだった)オルランド・ロロは、このオファーを委員会にもかけず独断で断っている。さすがにこの対応には鹿島は不快感を示し、一度は全てを白紙に戻したと言われていた。

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