「あいつを怒ったんです」名将・古沼貞雄の指示を無視した現役Jリーガーとは? 高校サッカー名将対談【後編】

2021年01月05日 サッカーダイジェストWeb編集部

「人間って人に言われた通りやっていると限界があるかもしれない」

2003年まで帝京高を指導した古沼氏。選手権では6回の王座を勝ち取った。写真:サッカーダイジェスト

 今年もいよいよ高校サッカー選手権の季節が到来。『サッカーダイジェストWeb』では優勝監督として大会の歴史に名を刻んだふたりの名将、元帝京高サッカー部監督の古沼貞雄氏と元流通経済大柏高サッカー部監督の本田雄一郎氏による対談を企画した。高校サッカーの酸いも甘いも知り尽くした重鎮たちによる、エピソード満載のクロストークをご覧あれ。

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――本田先生は以前から技術を重視し、とりわけワンタッチパスにこだわった指導を続けてこられましたね。

本田「いじる(キープ)のも大事ですけど、なにを目指すかというと、究極のワンタッチ。練習で、ワンタッチでパスしてごらんっていうと、サッカー経験者でも続けるのは難しい。それをツータッチ、スリータッチなら小学生でも100回くらいは続けることはできる。それだけワンタッチは難しいプレー。古沼先生もずっとワンタッチにこだわっていらっしゃった。生徒たちは「なんで?」って言うんです。やっぱり持ちたい。ふだんからそういう練習しているからね。ワンタッチのために、一番すごいプレーをするために、そういうボールいじりの練習をしているんだよ、と説くのはけっこうたいへんでしたね。もちろん、持っていいところもあるけど、持っちゃいけないところもある。その辺は状況判断、ということになるんですかね」

古沼「いま名古屋にいる金崎っているじゃないですか。あいつが滝川二高の時にね、エース格でいたときに指導を頼まれて行ったんですよ。その中で、『いまからワンタッチ』って言って練習を再開したら、あいつはね、持ったんですよ。持って切り返してね。それで、あいつを怒ったんです。『おれ、何て言った、ダイレクトでやれって言ったろ』って。そしたらあいつね、高校2年生だったですけどね、『先生そんなこと言ったって、いまのはダイレクトなんかで蹴れませんよ』なんて言う。『蹴れるかどうかじゃない、ダイレクトで蹴れって言ったんたんだ。失敗したっていいんだ。やれって言ったことをやれ』って、たしなめたことがあったんですけどね、そういう奴が伸びていくんですよ。
 
 面白いもんでね。人間って人に言われた通りやっていると限界があるかもしれない。経済界でもなんでもそうなんじゃないですか。その辺に課題があるかもしれない。こういう風にしてやってみろ、と言っても逆らう奴、そういう子っていうのは、選手の才能としては面白いと思う」

本田「だって、われわれもそうじゃないですか。逆らってばっかりで(笑)。振り返ってみるとね」

古沼「その後、日本代表の練習を見に行った時に、習志野の秋津グラウンドで再会したんですが、僕の姿を見たら、とんでもないところから走ってきて、『先生、しばらくです』って。『お前大人になったなあ』って言って褒めましたけどね。『おい、ダイレクトやれ!』って言ったら、『勘弁してください』なんてね。そんな子だったですよ(笑)」
 

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