チェルシーに快勝もアーセナルの苦悩は終わらない!? 英国人記者が読み解く名門の歴史的不振【現地発】

2020年12月28日 スティーブ・マッケンジー

アーセナルの不振はアルテタのせいではない

チェルシーを破って勝点3を手にし、笑顔を浮かべるアルテタ監督。 (C) Getty Images

 アーセナルがウェンブリーで2つのトロフィーを立て続けに獲得したのが、遠い昔のように感じてしまうのは私だけではないはずだ。

 ミケル・アルテタ監督が指揮を執ったガナーズは、今年8月にチェルシーを破ってFAカップを制し、その3週間後にはプレミアリーグ王者のリバプールを下してコミュニティシールドも掴んだ。新シーズンの幕開け前までのプロセスは、アーセナルにとって全てがポジティブに進んでいるように見えた――。

 しかし、彼らはいま降格圏まで6ポイント差の14位に落ちている。現地時間12月26日に行なわれたチェルシー戦で8試合ぶりの白星(〇3-1)を挙げたが、1974-75シーズン以来となる最悪の前半戦を送るアーセナルの根本的な問題は解決されていない。

 イギリス・メディアは監督キャリアを始めたばかりのアルテタに問題があると指摘。求心力を失い、一部の主力選手の間に軋轢があるとも報じられている。

 しかし、私はそれが理由であるとは考えていない。アルテタは就任1年目でFAカップを制したことからも分かる通り、その手腕に疑いはない。さらにいえば、「ロッカールームの空気が悪い」というニュースは、ビッグクラブが不振に喘いだ時にメディアが用いる常套句でもある。

 私は彼らの問題は戦力が安定しないことにあると考えている。今シーズンのプレミアリーグ15試合で、アーセナルの守備陣は毎試合違うメンバーで臨んでいる。ゆえに連携が深まらず、局面で混乱に陥るシーンも悪目立ちしている。

 また、アルテタは「乏しいフィニッシュワークを改善したい」と言う。アーセナルは複数得点を挙げたのが2回だけと、致命的な決定力不足に陥っている。私は攻撃面において、ブカヨ・サカ、キーラン・ティアニー、ガブリエル・マルチネッリが献身的に働いていると見ているが、残念ながら彼らは若手であり、常に攻撃で違いをもたらすような選手ではない。

 さらにピエール=エメリク・オーバメヤンも指揮官の頭痛の種だろう。チームキャプテンだった彼は今年9月に23年6月までの新契約を締結して以来、全く別人になってしまった。昨シーズンは頼みの得点源だったエースが、決定機でことごとく精彩を欠いている事実は、大きな問題だと言わざるを得ない。

 アーセナル・ファンたちはSNSで、コロナ禍で無観客となっていることがチームにとって幸運だろうとジョークを飛ばしていたが、あながちその指摘は間違っていないのではないかと思う。

 アーセン・ヴェンゲル政権の晩年、エミレーツ・スタジアムでは多くのファンが「Wenger OUT!(ヴェンゲルは出ていけ)」というプラカードを掲げ、クラブには暗雲が立ち込めていたのが記憶にあるからだ。ゆえに今、スタジアムが通常通りに観客動員をしていれば、チームへのプレッシャーとなる批判が増大することは避けられないだろう。

 いずれにせよ、アーセナルは過去数十年間で最悪の状況にある。フロントはアルテタの将来性を買っており、即座に解任されるようなことはないようだが、今後も低調なパフォーマンスに終始するようならば、そのプランもすぐに変わる可能性があるだろう。

取材・文●スティーブ・マッケンジー(サッカーダイジェスト・ヨーロッパ)

スティーブ・マッケンジー (STEVE MACKENZIE)
profile/1968年6月7日にロンドン生まれ。ウェストハムとサウサンプトンのユースでのプレー経験があり、とりわけウェストハムへの思い入れが強く、ユース時代からサポーターになった。また、スコットランド代表のファンでもある。大学時代はサッカーの奨学生として米国の大学で学び、1989年のNCAA(全米大学体育協会)主催の大会で優勝に輝く。

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