久保退団……ルールを破り続けた“傲慢”バルサを襲った危機【バルサ番記者】

2015年04月02日 ルイス・フェルナンド・ロホ

久保だけでなく、他にも何人もの選手がバルサを離れることに…。

輝かしきマシアの伝統を汚しただけでなく、少年たちの将来を壊しかねない事態を引き起こしたバルサ。これでは、悪徳代理人と何ら変わらない……。写真は昨季、UEFAユースリーグを制したチーム。 (C) Getty Images

「日本に帰国するよりも、ここバルサで世界トップレベルの若手と練習していた方が成長できる」
 
 これはバルセロナのある幹部が、今春でクラブを退団し、日本に帰国することになった久保建英にかけた言葉だ。
 
 しかし、これは明らかにおかしい。ある意味、傲慢な発言ですらある。久保は18歳になる2019年6月まで、バルセロナでは公式戦に出場することができないのである。この年齢の選手は、真剣勝負でもある公式戦で切磋琢磨して成長していくものなのだ。
 
 シャビも、イニエスタも、メッシも、ピケも、皆同じように戦ってきたからこそ、今があるのだ。4年間、ただ練習試合を繰り返すだけでは成長など見込めない。たとえ、それが世界トップクラスの下部組織であるバルサであっても、だ。
 
 クラブ内で「タケ」と呼ばれ愛された彼は、クラブがFIFAから受けた制裁の新たな犠牲となった選手だ。18歳以下の国際間移籍の禁止というFIFAルールに抵触した久保の退団は今、大問題となっている。
 
 半年以上前から、この状況が改善されなければ退団するということを、久保サイドはクラブに通達していた。練習試合だけで過ごす日々に、彼はもう耐えられなかったのだ。
 
 久保の退団は、バルサにとっては大きな痛手だった。クラブは久保の能力を非常に高く評価していた。ゆえに彼が公式戦に出られるようにあらゆる手段を講じたが、FIFAは規則を曲げる姿勢は見せず、久保の移籍はFIFAルールの第19項に抵触するとして、これを認めなかったのである。
 
 バルサは2010年より、海外の多くの少年を下部組織に呼び寄せている。これはちょうどFIFAが同条項を定めた年でもある。FIFA はバルサにいくつかの移籍が規則違反であることを忠告していたが、バルサはそれを無視し、18歳以下の選手を獲得し続けた。
 
 FIFAはこれらの少年たちの情報を送るよう、バルサに要請し続けてきたが、これに対してもバルサは真剣に対応しなかった。そして我慢の限界を迎えたFIFAは昨年4月、2度の移籍市場における選手獲得禁止処分を科したのである。
 
 バルサはTAS(スポーツ仲裁裁判所)に上告したものの、そこでも敗訴。久保が退団を考え始めたのは、その時だった。当然、バルサは彼を引き留めようとした。久保を高く評価しており、別の方法で公式戦出場を認めさせようとトライしたものの、結果的にそれは不可能だった。
 
 この件で被害を受けたのは、久保だけではない。下部組織では、他にも9人の選手が同じ状況に立たされており、数人はすでに退団が決まっている。それでもクラブに残るのは、18歳になるまであと少しと迫った選手たちだけだ。久保は今夏6月に14歳になる。今後4年間公式戦に出場できないのはあまりに痛すぎる。
 
 この件に対する責任は、FIFAではなく、全てバルサにある。どの世界にもルールがあり、それは絶対に遵守されなければならない。マシア(下部組織)の危機は、バルサが自ら招いた悲劇でしかない。
 
文:ルイス・フェルナンド・ロホ
翻訳:豊福晋
 
Luis Fernando ROJO|MARCA
ルイス・フェルナンド・ロホ/マルカ
スペイン最大の発行部数を誇るスポーツ紙『マルカ』でバルセロナ番を20年以上務め、現在は同紙のバルセロナ支局長。ヨハン・クライフら往年の選手とも親交が深く、ジョゼ・モウリーニョとはボビー・ロブソン監督の通訳時代から親密な関係を築く。
 
 
 
 
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