苦難のち黄金時代。1997年からの歴史を振り返り改めて分かった“川崎フロンターレの痛快劇”

2020年12月23日 白鳥和洋(サッカーダイジェスト)

よく心が折れなかったなと。中村の生き様には感嘆するしかない。

タイトルに届きそうで届かなかった時代を乗り越え、黄金時代を築く立役者に。中村の功績は偉大だ。写真:金子拓弥(サッカーダイジェスト写真部)

 激動。1997年から2020年までの川崎フロンターレの歴史を振り返った時、思い浮かんだのがこのひと言だった。今でこそ黄金時代を築く川崎も、「シルバーコレクター」と言われた時代があった。タイトルに届きそうで届かない、そんな苦しい時を過ごしていたのだ。

 例えば、2000年はリーグ決勝で鹿島に敗れ、J1タイトルを初めて目標に掲げた2007年もリーグカップのファイナルでG大阪に黒星。2009年は32節・大分戦での敗戦が響きリーグ優勝を果たせず、リーグカップではまたしても決勝でFC東京の前に散った。他にも川崎のサポーターにとって苦い思い出は数々あるだろうが、選手やスタッフはもちろん彼らが流した悔し涙も数知らずであった。

 2020年12月23日に弊社から発売された「川崎フロンターレJ1最速優勝記念号」の「CLUB HISTORY」を見ると、ようやくリーグ制覇を果たす2017年まで川崎が苦難の道を歩んできたことが分かる。そこで凄いなと思うのが、中村憲剛である。2003年にプロデビューして以来、何度も、何度も、悔しい想いをしながら、それでも移籍せず、強い心を携えてピッチの上で戦い続けた、と。

 彼が川崎で初めてリーグ優勝の喜びを味わうのはプロ15年目の2017年。あれほどの実力がありながら、15年もかかったのである。よく心が折れなかったと、感嘆するしかない。

 挫折と言っていい窮地から這い上がり、最後は勝者になる。2020年まで川崎が歩んできたストーリー──苦難を乗り越えて歓喜に沸く痛快劇は、陳腐ながらもあの半沢直樹の物語にどこか相通ずるものがあるように思える。チームの精神的支柱として仲間を支え続け、黄金時代へと導く原動力のひとりとなった中村は、"日本サッカー界の半沢直樹"と言えるだろうか。

 これまでタイトルに手が届かなかった天皇杯ではどんな痛快劇を見せてくれるのか。中村のラストダンスに期待したい。

文●白鳥和洋(サッカーダイジェスト編集長)
 
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