【徳島】「例年に比べて非常に早かった」主将・岩尾憲の言葉から紐解く“昇格の要因”とは?

2020年12月18日 柏原敏

スローガンに掲げた『叶(かなえる)』を実現

岩尾はキャプテン就任4年目で、悲願のJ1昇格を成し遂げた。写真:塚本凜平(サッカーダイジェスト写真部)

 12月16日、J1昇格を決めた。翌日になっても、その興奮は冷めやらない。

 昇格の要因は1つに絞れるほど簡単なものではないが、こういう原稿なのであえて絞ってみたい。

 1つの解として考察したのは『戦術浸透のスピード感』。

「戦術的な部分の浸透は例年に比べて非常に早かった。それがチームの完成度に大きな影響を与えたことは間違いない」(岩尾憲)

 在籍5シーズン目、リカルド・ロドリゲス監督就任と同時に4シーズン続けてキャプテンを務めてきた岩尾。苦楽を経験した上で言及したそのコメントに、J1昇格の要因が凝縮されていたように思う。

 R・ロドリゲス監督の戦術は周知の通り非常に複雑である。

 それゆえに、新加入選手のフィットには毎年のように時間がかかる。特にシーズンオフになると活躍した選手をJ1クラブから引き抜かれてきた背景のある徳島にとっては大きな課題だった。

 J1参入プレーオフのファイナルまで駒を進めた昨季を振り返っても同じことが言える。8月のお盆を過ぎた頃からは11勝3分1敗と怒涛の快進撃で4位フィニッシュしたが、裏を返せば、これだけ勝ち続けても4位だったということからも前半戦の苦戦は容易に想像がつくだろう。実際、昨季の序盤を振り返った際に岩尾が残した「勝って偶然。負けて必然」という言葉がそれを物語っていた。
 
 しかし、その課題が嘘のように、今季はプレシーズンから思いのほか仕上がっていた。早々に土台が固まったことで、その上に建設される建物は例年以上に大きく、細部の装飾までも華やかになっていった。スペイン人指揮官だけに、着工から100年以上が経過しても、なお建設途中という『サグラダ・ファミリア』とでも例えてみようか。建築と修復が繰り返されながら、当初は「300年はかかる」と言われていたそうだ。だが、21世紀に時代は移り、ITや技術発展によりその工期は一気に短縮されたと聞く。

 R・ロドリゲス監督の話として、その『ITや技術発展』に置き換えられる題材はないか想像してみた。そこで、浮かび上がったのはクラブが積み上げてきた努力と歴史だ。

 17年に新指揮官を招聘した当初、「徳島のスタイルは?」と問われても残念ながら共通のキーワードは出てこなかっただろう。だが、いまは違う。クラブが掲げたコンセプトをR・ロドリゲス監督がより具体的に設計し、選手たちは愚直にトレーニングを重ねながらピッチで表現し、強化部は何度引き抜かれようともクラブの目指す哲学と人物像に合う選手を探し続けてきた。

 この努力と歴史があったからこそ、年を重ねるごとに『クラブの求める選手像×新加入選手の描く徳島ヴォルティス像』のブレ幅は小さくなり、「戦術的な部分の浸透は例年に比べて非常に早かった」(岩尾)という結果につながったと推測する。

 努力の先に刻まれた新たな歴史。スローガンに掲げた『叶(かなえる)』は実現した。

「これはプレーヤーだけではなく、サポーターやクラブ、サッカーを取り巻くすべての方々の力。素晴らしい舞台、徳島にJ1があるという事が、実現されます。徳島県民の皆さん、徳島ヴォルティスに関わるすべての皆さんが、次の舞台をどうやって作っていくのか。非常に楽しみにしています」(岩尾)

取材・文●柏原敏(フリーライター)

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